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第1章:血染めの祝福
夕餉の支度の煙が煙突から立ちのぼっている。三人家族が暮らすには充分な家の扉を開けば、野菜スープに浮かべたハーブの香りが、ふうわりと鼻腔に滑り込んできた。
「お帰り、シズナ」
台所に立ち、鍋の中身をお玉でかき混ぜていた母イーリエが振り返る。髪と瞳の色は違うが、顔立ちはシズナが完全に母親似である事を示している。
「もうすぐご飯が出来るから、父さんを呼んできてちょうだい」
「はあい」
シズナは少しだけ間延びした返事をして、アルダと繋いでいた右手とは逆の手に握っていた木剣を壁に立てかけ、奥の部屋へ静かに歩み入る。たちまち、食べ物とは違う金属のにおいが漂ってきた。
「父さん、ご飯よ」
ああ、と低い応えが返る。窓際の机に向かい、かつ、かつ、と小さな音を立てていた中年男性が、手にしていた銀細工と工具を静かに机上に置いた。
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