第5章:赤い聖剣『フォルティス』

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第5章:赤い聖剣『フォルティス』

 心にぽっかり空いた穴。それを埋める方法すら知らずに、シズナは立てた両膝に顔を埋めて、部屋の外に声が洩れないように、静かに嗚咽する。  窓の外はまだ暗く、夜明けは遠かった。 『長く病を抱えていたが唯一王の慈悲深さにより快癒した』という建前を立てられていた勇者の卵シズナは、再び武器を握れる身体になってからというもの、鬼気迫る剣技を披露した。  武器から離れていたのが嘘ではないかとばかりに、今まで以上の鋭い剣さばきを見せ、向かってくる練習相手の騎士達を圧倒する。最初に下卑た挑戦を仕掛けてきたイリオスさえ、その気迫の前には怯み、練習用の剣を弾き飛ばされて手首を痛め、『とんだあばずれだぜ』と、愚痴を零したものだった。  シズナは魔法の修練にも今まで以上に身を入れた。一年前には小規模な火花しか熾せなかった『火炎律』で炎の壁を作り出し、 「無理、これ以上ここでやるのは無理。研究室が壊れる」  とコキトが遂にお手上げするほどの実力を身に着けた。
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