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第5章:赤い聖剣『フォルティス』
抱くに値しない女に興味は無い、という意図を隠しもせずに、唯一王は形ばかりの宣告をして、階の下に控えていた文官に合図を送る。すると彼は一振りの、立派な鞘に収められた長剣を捧げ持って、シズナの前へとやってきた。
「それは歴代の勇者が持つ聖剣『フォルティス』だ」
いちいち説明するのも面倒くさそうに、唯一王は聖剣を指差す。
「この王都には、先代勇者エルストリオが魔王討伐の証に持ち帰った、対となる魔剣『オディウム』があった。だが、魔剣は一年前、この聖都を侵し、兵士九人を殺した魔族によって持ち去られている」
それを聞いて思い当たる節がある。一年前といえば、世界の全てが変わった、あの悪夢の日だ。
『ちょいと野暮用があってねえ。遅くなったよ』
とユホは言って、赤の剣をアルダの手に握らせた。きっと、あの時彼女が王都から魔剣を奪い、与えたのだろう。新たなる魔王に。
「聖剣は、そなたを真の勇者と認めた時に、聖なる輝きを放つという。一刻も早く使命に目覚め、魔王アルゼストを討ち、このアナスタシアに平和を取り戻すのだぞ」
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