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第5章:赤い聖剣『フォルティス』
ヘルトムート王の言葉に合わせて、文官が聖剣『フォルティス』をシズナの手に託す。ずしりとくるかと思った重みは無く、シズナの腕力でも簡単に振り回せそうだ。銀の鞘に金の蔦の装飾が施され、柄は片手剣よりも長く、静かな光をたたえた無色透明の石を抱いている。
柄に手をかけ、少しだけ引き抜いてみる。刃は柄の石と同様無色に透き通っていた。
刃を鞘に戻し、形ばかり、唯一王に低頭する。
「では、行け、若者達よ。朗報を待っておるぞ」
「唯一王の御心のままに」
はい、と答えるのが癪で沈黙を貫こうとしたところ、それを察知したのかミサクが先んじて応えた。横目で見れば、彼は胸に手を当て深々と頭を下げている。他の者達はとうかがえば、アティア達三人もしっかり腰を折ってはいたが、イリオスは口の端に相変わらずにやにやと笑みを浮かべ、アティアはやけにむっとした表情をしており、コキトは何を考えているのかうかがい知る事が出来なかった。
もしも今、ここで、という考えが、ふとシズナの脳裏をよぎる。
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