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「そっか……モデルのレッスンも無駄じゃなかったか」
「この世に無駄なことなんかない。養子になるまで居た施設の園長先生がそう言ってたんだ」
報われないと思っていた努力が無駄ではなかった。
そう思うと救われる。
俺は……やっぱり静流が好きだ。
嘘のない静流の言葉に、長年心に燻っていた自分を否定する気持ちがゆっくりと溶かされていくのを感じる。
「静流………ありがとう。何だか俺、元気でたわ」
「別にお礼を言われるようなことは言っていないが…。まあ、貴文が元気が出たなら良かった」
貴文が嬉しそうな顔になって静流はホッとしていた。
貴文が時折見せる寂しそうな表情は、かつて自分が居た施設でよく見た表情だ。
愛情を求める幼い子供のような顔をする貴文を、静流は放っておけない気持ちになっていた。
本当の家族が居ても、満たされないことはあるんだな………。
貴文は小さい頃からずっと一人で寂しかったんだろう。そう思うと、胸が締め付けられる気がする。
「静流、今日もお弁当?」
「ああ」
「良かったらまた学食と交換してくれない?」
「大したもの入ってないぞ?いいのか?」
静流の弁当が食べたいのだと貴文は笑った。
その笑顔を見て、静流の中にほわほわと形容し難い気持ちが浮かぶ。
それが何なのか静流にはまだ分からなかった。
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