第1話

2/21
前へ
/222ページ
次へ
電車を降りて駅から大学までの道でも、すれ違う女性が振り返って僕を見ている。 いくつもの視線に晒されて、大学に辿り着くまでにすっかり疲れてしまうのだが…。 「あ!北の王子が来た~」 「今日も凛としていて麗しい……」 大学に到着しても視線に晒されるのは変わらない。 田舎から東京に出てきて、大学に通い始めて1ヶ月。僕は好奇の目で見られるのにすっかり疲れていた。 大体なんだよ……。 北の王子って恥ずかしいあだ名は。 北野静流、僕の名前の苗字をもじって『北の王子』と呼ばれるのには理由がある。 なぜならば……。 「あ!南の王子も来た!」 「今日も爽やかだわね~」 校門から爽やかな笑顔を振りまいて、華やかな男が入って来た。 南野貴文。 『南の王子』と呼ばれるもう一人の王子だ。 華やかで社交的で……貴文は王子と呼ばれるのに相応しい。 皆に見られても全く気にする様子もなく、羨ましいと思って静流は貴文を眺めていた。 「あ!北野君、おはよう」 「………うん」 貴文に急に声をかけられ、静流は驚いて短い返事をするのが精一杯だ。 貴文のキラキラオーラが凄すぎて……眩しすぎて顔が見られない……。 「北野君、一限は英語でしょ。一緒に行こうよ」 「いや……。僕は一人がいいから」 にこにこと話しかけてくる貴文から、静流は早く逃げたかった。 こんな目立つ男と一緒に居たら、更に目立ってしまうじゃないか。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1494人が本棚に入れています
本棚に追加