第1話

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「静流って、本当に面白いや。じゃあ学食で弁当食べてよ。今日は静流とお昼一緒に食べたいんだ」 「学食………人が多いから嫌だ」 「お願い!」 「……………」 イケメンは狡いよな。 この顔で懇願されたら断れない。 僕はまた貴文に流されて学食に行くはめになってしまった。 「ちょっと……北と南の王子が一緒に居る!」 「眩しい……。何あのオーラ」 ざわざわと学食中の人間が僕と貴文を見ている。だから嫌だったんだ。 貴文は全く気にする様子もなく定食を注文して窓際の席に座った。 「ね、お弁当見せて」 「別に普通の弁当だぞ。昨日の残り物を詰めただけだ」 肉じゃがの残りと卵焼き、ほうれん草のお浸しだけのシンプルな弁当を見せると、貴文の顔がぱっと輝いた。 「何それ、すごい美味そうじゃん」 「普通だろ?その定食の方が美味しいと思うけど」 「……ねえ、静流の弁当と俺の定食を交換してもらえない?」 「は?それじゃ君が損すると思うけど…」 「お願いします」 コイツは今日一日だけで何回僕にお願いするんだ。僕が断れないと思って……。 結局今回も断れず、僕の弁当と貴文の定食を交換することになった。 学食の食事なんて一回しか食べたことがなかったから、正直言えばちょっと嬉しい。 「うわぁ。お弁当なんか久しぶり。何から食べようかな」 貴文も嬉しそうだから、まあいいか。 それにしてもあんな地味な弁当を喜ぶなんて、本当に変わっているな。
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