第1話

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「…………凄い美味い!静流って料理上手なんだね」 「普通だよ。凝った料理はできないし」 「こういう家庭的なのがいいよ。食べるとホッとする感じでさ」 「君は本当に変わってるな…」 定食のトンカツの方が余程いいじゃないかと思いながら、美味しくいただいた。 貴文は一口毎に美味しいと言いながら、あっという間に弁当を食べ終える。 「あー、幸せ。こんな料理が毎日食べられたら幸せだなぁ」 「大袈裟だな。そんな大した料理じゃないのに」 気付けば僕は貴文と普通に喋れるようになっていた。 人見知りで人間関係が苦手な僕が、ほぼ初めて喋った相手とここまで話せるようになるなんて凄いことだ。 田舎の両親が、こんな都会的なイケメンと話している僕を見たら、さぞ驚くことだろう。 「お!貴文。北の王子とご飯なんか食べちゃって。今朝振られてたのにどうやったんだよ」 「山口、いいだろ。友達になったんだ」 へぇ……と、山口が驚いた顔をして静流の顔を覗き込む。 ジロジロ見られるのは嫌いだ。 いたたまれなくなった静流は、食べ終わった食器の乗ったトレイを持って立ち上がった。 「静流、もう行っちゃうの?」 「三限は六号館なんだ。遠いから、そろそろ行く」 残念そうな貴文と、不思議そうな顔をして二人を見ている山口を残して、静流は逃げるように学食から出て行った。
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