第1話

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お金を払って行きたくもない合コンに行くなんて、自分には絶対に無理だ。 「合コンなんて狩人だらけの会に……よく行けるね」 「ぶっ……狩人って……」 「狩られないように気をつけて。じゃ」 クールに手を挙げて去っていく静流を、貴文は笑顔で見送った。 狩人だらけの会か……。 静流は本当に面白い。 「北野君!三階のトイレ頼んだ!」 「了解です」 バイト先のビルで、先輩の荒川さんと言葉を交わして僕は清掃先の三階トイレに向かった。 ゴーグルにマスク、帽子も被った僕を誰も見ることは無い。 黙々と清掃場所に向き合って、担当箇所を磨き上げていく。このバイトは天職だとさえ思える。 同僚も年配の女性ばかりで、恋愛対象として見られることは無いのでとても気楽だった。 大学や日常では人に見られてばかりだから、バイトに来ると本当に落ち着く。 この大手アパレルブランドの自社ビルは、明るく綺麗で掃除をするのも楽しかった。 静流はトイレの前に清掃中の立て札を立ててから、トイレの中に足を踏み入れて……。 「ああ!良かった!君、メンテナンス会社に連絡してくれ!」 びしょ濡れになりながら洗面台の蛇口を押さえるサラリーマンに遭遇して、静流は驚いて一瞬固まってしまった。 「蛇口が壊れてて……俺が手を離すと天井まで水が吹き上げるんだ。頼む、番号は横の壁のところに貼ってあるから……」 「わ、分かりました」
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