第1話

17/21
前へ
/222ページ
次へ
静流は慌てて自分の携帯をポケットから取り出すと、壁に貼ってあったメンテナンス会社の番号に電話して直ぐに来てもらうよう話をつけた。 「30分くらいで来られるそうです。あの、それまで押さえていられそうですか?」 「実はさっきからトイレに行きたくて……申し訳ないんだが交代してくれないか?」 「分かりました」 濡れそうだが制服なので問題ない。 それよりも、このサラリーマンはこんなにびしょ濡れでこの後どうするんだろう。 「じゃ、俺が手を離したらすぐに押さえてくれ。行くぞ………それ!」 掛け声とともに静流は押さえる係を交代したが、交代の際勢いよく吹き出した水に一瞬で全身に水を浴びてしまった。 「ああ……申し訳ない」 「大丈夫ですから、トイレ、行ってきて下さい」 「すまん、助かるよ」 僕が来るのがもう少し遅ければ、あの人トイレ間に合わなかったのかな…。 慌てて個室に駆け込んで行ったサラリーマンを気の毒に思いながら、静流は必死で蛇口を押さえた。 「いや、助かったよ。かなりピンチだった」 「間に合って良かったです」 「君も濡れちゃったね。よし、交代しよう」 「大丈夫ですよ。貴方は仕事があるんじゃないですか?ここは僕がメンテナンス会社が来るまで押さえてますから、仕事に戻って下さい」 そんな訳にはいかないよと言うサラリーマンに、大丈夫ですからと重ねて言うと渋々納得してくれたようだ。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1481人が本棚に入れています
本棚に追加