第1話

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服は要らないが下着は欲しい。 ノーパンにズボンだけは、生理的にどうしても嫌だった。 「パンツ……勿論あるよ!じゃ、こっちに来て!」 イケメンサラリーマンにぐいぐい手を引かれて、静流はエレベーターに乗せられて最上階まで連れていかれてしまった。 確かこのビルの最上階は重役フロアで、静流のような下っ端には清掃を任せて貰えないフロアの筈だ。 静流の横でにこにこしているこの人は、重役なんだろうか? 蛇口を押さえてびしょ濡れになりながらトイレを我慢していたこの人が、重役だなんてピンとこない。 それに、重役だとしたら若すぎる気がする。 「はい、入って入って」 「お邪魔します……」 パンツ一枚貰えたら有難かったのに…。 通された部屋にはハンガーに掛けられた洋服がずらりと並んでいた。 「この子が雅文さんの恩人の子?」 「そうだよ。親切にしてもらったから、素敵にコーディネートしてあげてね」 部屋の中に居た中性的な顔立ちの男性が、ジロジロと僕のことを見る。 その人はつかつかと僕に近寄ってきて、いきなり僕のゴーグルとマスクを剥ぎ取った。 「わっ……!何するんですか…」 「あらやだ!この子物凄く綺麗じゃない!」 あ………この人、オカマの方かな? マスクとゴーグルを剥ぎ取られた驚きより、初めてオカマらしき人に遭遇した驚きの方が勝ってしまった。 「本当だね……。掃除の男の子がこんなに綺麗だなんて思わなかったよ」 「これはやり甲斐があるわぁ」 「あのっ……僕はパンツだけ頂けたら……。それにまだ仕事が残ってます、ので……」 「職場の方には連絡入れといたから。君は黙って薫にコーディネートされてよ」 無茶苦茶だ……。 イケメンは皆、強引すぎる……。
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