第1話

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静流が慌てて二人の待つ部屋に戻ると、静流の姿を見て二人ともほぅ……と、息を飲んた。 ざっくりとしたニットに細身のパンツというシンプルな服装だったが、静流の素材の良さが際立っている。 「アナタ、スタイルもいいのね。さ、髪の毛整えるからここ座って」 「いやぁ、静流君すごいね。こんなに綺麗な子、モデルでもなかなか見ないよ」 お世辞だろうが、静流は容姿のことを言われるのが嫌いなのでむっつりと黙り込んでしまった。 人目を引く顔だというのは、長年生きてきて自覚しているが……自分では自分のキツい顔は嫌いだし、綺麗だなんて思えない。 「はい、できた。完璧よ」 「このまま雑誌の表紙を飾れそうだね。あ、良かったらこの後食事にでも行かないかい?」 「いえ、もう帰ります。服は着てしまったので、後で洗濯してお返ししますから……」 雅文さんは驚いた顔をして、すぐにぷっと吹き出した。 「それ、うちの会社のサンプルだから貰ってよ。君みたいに素敵な子に着て貰えたらいい宣伝になるし」 「貰っときなさいよ。他にも欲しいのあれば持って行っていいのよ?」 「いえ、あの、じゃあ、これ、いただきます。ありがとうございます……」 ああ。 早く帰りたい。 「じゃ、食事に行こうか。イタリアンは好きかな?フレンチの方がいい?」 「いや、あの、そこまでしていただかなくてもいいので。もう帰りますから」 「あたしイタリアンがいい!静流ちゃん、イタリアンでいいでしょ?雅文さんの奢りなんだから遠慮しないで行きましょ」 何がどうしてこうなったのか……。 水漏れの蛇口を押さえただけなのに、洋服を一式貰ってよく知らない人達と食事に行かないといけないなんて……。 雅文さんと薫さんに両側から腕を組まれて、連行されるみたいに僕は部屋から連れ出された。
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