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「バイト先は遠いのかい?」
「大学のすぐ近くだよ。駅のところにある大きい建物。うちからも近いから理想の職場だ」
それを聞いて貴文の顔が曇った。
「駅前の一番大きい……アパレルブランドのビルかな?」
「そうそう。そこの清掃部でバイトしてるんだ」
「そうか、なるほど………」
貴文はそう言って黙り込んでしまった。
僕のバイト先がどうかしたのだろうか。
「貴文、どうかしたのか?」
「あ、何でもない。まあ、掃除なら大丈夫………かな」
「何がだ?」
「いや。本当に何でもない」
貴文にはぐらかされたのが気になったが、静流はそれ以上バイトの話題には触れなかった。
貴文は二日酔いなのか昨日学校で会った時より静かで、物思いに耽っては時々静流の方を申し訳なさそうに見てくる。
酔っ払って迷惑をかけた件なら、もう気にしなくてもいいのに。
「洋服はもうすぐ乾きそうだけど……何か本でも読むか?うち、テレビ無いから退屈だろう」
「大丈夫だよ。静流の部屋、何か落ち着くし………」
「このボロアパートが?君、本当に変わってるよな」
静流がくすっと笑うと貴文はその笑顔に目線が吸い寄せられてしまった。
なんて綺麗な笑顔なんだろう。
俺は……どうして昨夜のことを何も覚えていないんだろう……。
覚えていないことが悔しいと思うなんて、自分は一体どうしてしまったのだろうかと、貴文は自問する。
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