第2話

21/22
前へ
/222ページ
次へ
貴文は言葉を発しないで父親をじっと睨んでいる。 久しぶりに息子に会ったというのに、父親は雅文にばかり話しかけて貴文の存在を完全に無視していた。 昔からそうだ。 父親の目には出来の良い兄しか映っていない。 雅文と話していた父親がチラリと貴文に目を向ける。 「貴文、取材を台無しにするなよ」 「分かってるよ。俺は黙って立ってればいいんだろ」 静流は貴文と父親のやり取りを不思議な気持ちで見ていた。 家族なのにこんなに素っ気ないなんて…。 静流の実家では、いつも賑やかで皆が笑っていたものだが貴文と父親には全く笑顔が見られない。 「社長、メディアの方が取材に見えたそうです」 「よし、ホールに移動するぞ」 秘書らしき女性が呼びに来て、静流達一行はぞろぞろと連れ立って社長室とは反対の廊下の端にある部屋にぞろぞろと歩いて向かった。 『お待たせしました。我社のメンズ向け新ブランドの発表をさせていただきます』 扉が開け放たれるとそこには大勢の人が待ち構えていた。 カメラのフラッシュが一斉に焚かれて静流の足は竦んでしまう。 そんな静流の様子を見て、貴文は静流の耳元で「俺が一緒だから大丈夫だ」と囁いた。 緊張で血の気が引きそうだったのに、貴文の一言で静流は落ち着きを取り戻した。 大きく息を吸ってから、背筋を伸ばして静流は会場に足を踏み入れた。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1482人が本棚に入れています
本棚に追加