第3話

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「じゃあ俺達は帰るから」 「もう帰るのかい?久しぶりに会えたんだからもう少し居てよ貴ちゃん」 「もう用は済んだだろ。行こう静流」 貴文は静流の手を掴んでソファから立ち上がった。 引き止める雅文と薫を振り切って、貴文と静流は副社長室から出て行った。 「あんなに簡単に帰して良かったの?二人とも欲しかったんでしょ?」 「まあ、焦らずいくよ」 二人が出て行ったドアを見つめながら、雅文はにこにこ笑った。 人当たりがよく愛想のいい雅文だが、それは表向きの顔で本当は抜け目のない経営者の器だということを、長い付き合いの薫は知っている。 雅文は絶対に二人を手に入れるだろう。 薫はそう確信していた。 エレベーターで一階に降りて、正面玄関から出たところで貴文はずっと掴んだままだった静流の手を離した。 「静流、本当に変なことに巻き込んでごめんね」 「大丈夫だよ。バイト代も貰えたし…」 「君達、ちょっといいかな」 謝る貴文に静流が答えていた時、背の高い雰囲気のある男性が声をかけてきた。 明らかに一般人とは違う佇まいに、貴文は警戒心を強める。 「何でしょうか?」 「いきなり声をかけて失礼しました。私はこういう者なのですが……」 渡された名刺は、業界に疎い静流でも名前を聞いたことがある大手の芸能事務所のものだった。
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