第3話

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「先程nannoさんの新ブランド立ち上げ発表会でお二人の姿を見て…。どこの事務所に所属ですか?よければうちに移籍しませんか?」 貴文はハァ…とため息をついた。 スカウトか……だから人前に出たくなかったんだ。 「俺達、ただの大学生なんで。今日はたまたま駆り出されましたけど、芸能の仕事をする気はないです」 貴文がそう答えると、隣で静流も頷いている。人の注目を浴びるのが嫌いなのに、芸能の仕事なんか出来るわけないと、嫌そうな静流の顔に書いてあった。 「そんな容姿でただの大学生の訳ないでしょう。うちに移籍したら、大々的に売り出すのを約束しますよ」 静流は話を聞いて頭が痛くなってきた。 大々的に売り出されたりしたらたまったものではない。 目立たず平凡に生きるのが静流の望みなのだ。 「本当に、こういうの迷惑なんで。失礼します」 「気が変わったらいつでも連絡待ってますから」 貴文は再び静流の手を引いてスカウトから逃げるようにその場から立ち去った。 容姿容姿って………。 俺の価値は顔だけなのかよ…。 他人からも、身内からも、いつも顔しか評価されない。 いつも笑顔で誰とも愛想良く話す貴文だが、顔だけという扱いにはうんざりしていた。 「貴文……そろそろ手を離してくれ。街の人がみんなじろじろ僕達のことを見ているぞ」 静流にそう言われて、貴文は慌てて静流の手を離した。
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