第3話

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「洗濯干せた~。なんか、いい匂いするね」 「もう少しで出来るからな。食器を出してくれるか?」 「ああ。そっちの蒸し器は何蒸してるの?」 「これはデザートのプリンだ」 手際よく静流は夕飯を仕上げると、貴文にも手伝ってもらってダイニングテーブルの上に料理を運んだ。 「こりゃまた凄い美味そう。ブリ照りなんて家で作れるんだね」 「こんなの魚を焼いてタレを絡めるだげから簡単だ。さ、食べよう」 最新式のキッチンで料理ができて、静流は満足していた。 あのオーブンも圧力鍋も土鍋も使ってみたいという未練はあったが、それでも十分楽しい気分だ。 「静流美味しい!これ、凄く美味しいよ」 「そうか?なら良かった」 美味しそうに食べる貴文を見ると静流も嬉しくなる。 実家を出てから誰かに料理を作る機会がなかったので、こうして自分の料理を喜んで貰えるのが嬉しかった。それに貴文はいちいち感動してくれるので作り甲斐がある。 「こういうの、家庭の味って言うんだよね。静流の料理を食べるまで知らなかったよ」 「不思議なことを言うな。実家で親が作ってくれなかったのか?」 「母親は俺が生まれた時に死んじゃったし…家政婦さんが食事は作ってくれてたけど、こんな味じゃなかったな。味がしなかった…」 実家のうすら寒い食卓を思い出して貴文は気持ちが暗くなりそうになる。 父親と兄と三人の食卓。 父親は兄の話しか聞かず、貴文は居てもいなくてもいいような存在だった。 食事の時間は孤独がより増す気がして、貴文は食に対してさほど興味が持てなかったのに……。
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