第3話

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「貴文と居ると、笑ってばかりだ。君、本当に見かけと違うね」 「静流には言われたくないよ」 「褒めてるんだ。素の貴文の方が、僕は好きだよ」 田舎から出て来て、毎日は憂鬱で……こんなに笑って楽しい気分になれたのは久しぶりだった。 貴文の寂しがり屋のところも、素直で感動屋なところも、僕の外見だけを見ないところも、どれも一緒に居て心地よい。 いい友達が出来て良かった……。 アパートの近くまで貴文に送ってもらい、静流は誰も居ない部屋に戻って、とりあえず一息つこうとお茶を淹れた。 今日は色々なことがありすぎた。 貴文が泊まって…。 貴文に自分との肉体関係を疑われたり。 急にモデルのバイトを頼まれたり……。 そこでふと、渡された封筒の中身を確認していなかったことに気がついた。 一時間ほど立っていただけだったが、一体いくらバイト代を貰ったのだろう。 「え……こんなに?」 封筒の中には三万円が入っていた。 清掃のバイトなら、30時間は働かないと手に入らない金額が、たったあれだけで…。 何かの間違いかもしれない。 三千円のところを間違って三万円入れてしまったのかも……。 「これは、返しに行かないと不味いよな」 また、雅文や薫に会うのは憂鬱だったがこのお金を受け取る訳にも行かない。 静流は大きなため息をついてから、封筒を鞄に仕舞った。
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