第1話

8/21
前へ
/222ページ
次へ
「静流は普段は何してるの?」 「………バイト」 「何のバイト?カフェとか?」 「ビルの………清掃」 カフェだなんてとんでもない。 なるべく人と触れ合わない清掃のバイトが僕には合っていた。 「ははは……静流って、面白いね」 「面白い……何が?」 「だって……。そんなに格好良かったら、もっと割の良いバイトがありそうなのに。清掃とは意外だったよ」 楽しそうに笑う貴文に、何と反応したらいいか分からなかった。 僕にとっては最高のバイトなのに。 「貴文……は、バイトしてないの?」 「俺は古着屋でバイトしてるよ。今度お店に来てよ」 古着屋か……。 古着屋には興味があるな。 僕の家はそれほど裕福ではないのに、長野から上京して東京の大学に行かせてもらっているのだ。 食べ物も着るものもなるべく節約しないといけない。 「今度、お店行くよ」 「本当に?静流が来てくれたら俺がコーディネートしてあげるからね」 「それは……遠慮する」 きっぱりと断ると貴文はまた楽しそうに笑った。 「普通は社交辞令でお願いしますとか言うだろうに……。静流は正直なんだな」 「その気もないのにお願いしますなんて言ったら……君に失礼だろう?」 「うん、そうだね。社交辞令なんて相手に失礼だ」 貴文はひとしきり笑った後、はぁ……と大きく息を吐いた。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1481人が本棚に入れています
本棚に追加