第1話

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「なんか俺、久しぶりに心から笑った気がする」 「君はいつも人に囲まれて笑ってるじゃないか」 「あれは……本当に笑ってる訳じゃなくて、周りに合わせてるだけ。空気読んで、相手の欲しい言葉を言ってるだけだよ」 「それは疲れそうだね」 いつも周りに合わせて空気を読んでいないといけないなんて、僕には無理だ。 それをいつもしているなんて、貴文はすごいなぁと思う。 「小さい頃から空気読むのだけは上手くてさ。誰からも好かれるように、敵を作らないように生きてきたんだ」 貴文が語りだしたので僕は黙って聞くことにした。 華やかな王子様は何の悩みもなさそうに見えたのに、けっこう大変そうだ。 「時々すごく疲れて…。そんな時に静流の姿を見てさ」 「僕の?」 「凛として周りに振り回されていない静流に憧れてたんだ。格好良いってさ」 完璧に見えていた貴文が僕に憧れていた? そんな馬鹿なことがあっていいんだろうか。 「君……楽しそうに見えていたけど、色々あるんだな」 「何か変な話してごめん。こんなこと誰にも言ったことないのに……。どうしたんだろう」 「たまには、いいんじゃないか?ストレスを溜めるのは、良くない」 そうだよねと言って貴文はまた笑った。 「あ、学食開く時間だ。静流、昼食べに行こうよ」 「いや、僕は弁当を持ってきてるから」 「あれ?実家から通ってるんだっけ?」 「弁当は自分で作ってる」 学食が安いとはいえ、節約のためには弁当の方がいい。毎朝早起きして僕は弁当を作って持ってきていた。
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