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 もはやカイへは、皮肉を言っても人差し指でツンツンと額を折檻しても、何一つ反省は望めそうになかった。  カイは藻のように張り付いた髪も払わずに、笑った。 「テンさんに会える気がした」  リクの中の修羅が剥がれ落ちた。  黙って自分の手に括り付けていた縄を解いていく。てのひらを見ると、縄の圧力で皮膚が青くなり、ささくれのせいで少し血も出ていた。おそらくカイの胴回りも同じように内出血を起こしているだろう。 「テンさんは死んだよ」 「うん」 「沈んだ。魚に全部食われたんだよ、クソになったんだよ。骨すら残っちゃいねえよ」 「……うん」 「おれ、もうおまえの命綱やめるわ」 「えっ」 「いま真夜中じゃんか。嫁さんいるし、子供ももうすぐ生まれるし。おまえにだけ構ってられないよ。潜るんなら今度からはよそをあたりな」 「で、でも見て。こんなに物見石(ものみいし)取れたよ」  釣りで大物を釣った時のように、カイは袋を持った左手をリクへ突き出した。じゃら、と中身が擦れて音がする。音がするのに、網袋の中には何もなかった。  リクは空っぽのそれを、冷たく一瞥した。 「ここにはもう貧しい奴なんかいない」 「命綱がないと、わたし潜れなくなっちゃうよ」 「なら二度と潜るなよ」 「リクぅ」  それきりリクは桟橋から取って返してしまった。彼は背中越しに乱暴に手を上げるだけだった。 「リクぅ!」  夜の海は、カイの声を沖までよく響かせた。
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