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 そう思った時にはもう、カイの身体は引っ張り上げられていた。腰から『く』の字に折れ曲がって、海の中の気泡がぐんぐんとかき混ぜられる。月の光が強くなる。代わりに、海の底へと広がる星は消えていった。 「っはあッ」  空気。深呼吸。  頭ひとつ高い位置にある桟橋へ腕をつける。咳き込む。  ほんの少し遅ければ溺れ死んでいたであろう朦朧とした意識でも、左手に持った網袋だけは、本能で離さなかった。  二本の足が見える。視線を上げる。膝、胴、肩、顔。  鬼の形相。あ、やっば。 「おぉまぁえぇええッ!」  リクが叫んだ。本当に修羅でも乗り移ったのではと疑いたくなるほどの力で、カイを軽々と引っ張り上げる。  桟橋に足がついて、カイはへたりこんだ。  自分の腰にぐるりと結ばれている麻の綱を見た。綱は蛇のよう伸びて、尻尾の部分はリクの手のなかで何重にも括り付けられていた。  カイととを繋ぐ、命綱だった。 「おれはちゃんと、おまえの呼吸量限界の数分前に“くい”ってやったよな、“くい”って。合図送ったよな? 間違いないよな? え? おれの怠慢じゃあないよな?」 「うん」 「じゃ、あ、な、ん、で、上がってこないんだっ! ばかっ! ひやひやしたわっ!」 「星が綺麗だった」 「聞いてます? ねえ? カイさぁん、耳に海水が詰まってますかぁ?」
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