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(こいつがあの時の男の子だったなんて。なんかちっとも感謝の気持ちが湧いてこない!)
「よし。もう恩人を貴様呼ばわりしたり、剣を向けたりしちゃだめだぞ」
うつむいた頭をポンポンと叩かれて、サラの顔が実にしょっぱい表情になる。
(それにエスト様が養子で、実際はナオトさまの甥にあたる方だってのは知ってたけど。血の繋がった別の息子がいたなんて! しかも……)
サラは顔を上げ、リュートを睨みつけた。
「礼は尽くしたわ。この先は元の立場に戻る! ジャンク、本名リュート。貴方を侯爵家のエスト団長の元へ連行します。いいわね!」
「やなこった」
「はあっ!?」
「あ、でも貴様じゃなくなった。けっこうだ」
どうにもペースが乱される。冷静さをつい失ってしまう自分にプルプルと頭を振って、サラは改めてリュートを見つめた。
「ねえ……あんた、エヴィルの民なんでしょ。今の話がとんでもないコトだってわかってる?」
「国を守る機関のトップだった男が、むかーし昔、国の転覆をはかった種族の娘に惚れて子供まで作ってたってコトか」
リュートの口調は軽いが、その事実は重い。
「そうよ。エヴィルの血族が今も残ってるってだけでも大問題なのに」
「エヴィルがいて何が悪い?」
その質問に、サラは国を守る近衛師団として唇を引き結んだ。
「じゃあ聞くけど。さっきあたしと戦った時、何をした? いきなり防具が壊れて、デコピンなんかで意識が飛ぶなんて」
「俺は魔導士だぞ。魔法に決まってるだろ」
「そんなのおかしい! あの時、あんたは魔法の呪文なんか詠唱しなかった。何か別の……」
「俺のマナに詠唱は必要ない」
さらりと言ってのけるリュートにサラの顔色が変わる。
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