雨の日が始まる

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さて、今日の業務は…と。 部長という肩書を貰ってから、外に営業へ行くよりかは中にいることが増えてしまった。会議の回数が増え、長年営業職をしていたがすっかり事務職をしているような気持ちだ。 午前中に会議が2件と、午後は来客での商談か…。 私が勤めている会社は食品の卸業になる。 主に輸入品を取り扱っており、スーパーなどの小売業やレストランなどの業務用に営業し販促している。学生の頃、海外へ旅行するのが好きで、外国の商品を取り扱っているこの会社に就職したのだった。 無難に会議を終え、一息したところで松下くんにランチのお誘いをされた。彼は私を慕ってくれているようで、私が部長という立場でありながらもたまにこうして声をかけてくれる。 「部長!松下ばかり相手にしなくていいですよ!嫌な時は嫌って断っていいんですからね!」 そう言ったのは長澤さん、確か松下くんと同期で、3年ほど前に部署移動して営業事務として働いてくれている。 「いやいや、嫌だなんて思ったことないですよ。ありがとう長澤さん。松下くん、20分後くらいならいけると思いますが、何時からランチ行きましょうか。」 「やった!ありがとうございます!20分後ですね、了解です!そのタイミングで大丈夫っす!」 ふふ、彼は本当に明るいな。こんな私とランチに行けることで楽しそうにしてくれるなんて、ありがたい事です。 良いタイミングで声をかけ、よく行く居酒屋でランチをした。都内の居酒屋はランチ営業しているところが多く、安くてボリュームもあり、意外にもゆっくりできる。 彼は新規で取り扱うことになったベルギー産のコーンフレークにハマっており、熱心に販促をしていた。 社内で行われる試食会で、松下くんは目をキラキラさせながら、これが本物のコーンフレークだ!とうもろこしがガツーンってくる!って感動しはしゃいでたのを思い出した。 主にそのコーンフレークの営業状況を聞いたり、新規開拓していきたいっていう熱意を聞いたりし、食事が半分進んだ頃には、雑談となっていた。 「最近小次郎元気ですか?」 「相変わらず元気ですよ、懐いてくれてるとは思いますが相変わらず甘えてはくれませんがね」 「んー小次郎せっかく部長と暮らしてるのに、勿体無い!でも相変わらずでよかったです!」 これは、何回聞いてもよく分からないんだが、松下くんは小次郎がずるい、とたまに言う。嫉妬に近い気持ちらしい。 「小次郎のポジションが羨ましいんです!」と。 とりあえず、今日も元気そうで本当に何よりです。 店を出る時、入り口近くの傘立てに入れていた松下くんの傘が無くなっていた。ビニール傘だったから誰か間違えて持っていってしまったのかもしれない。 幸いにも、この時間は小雨だったので、少し早歩きでオフィスまで戻ることにした。 「松下くん、今日の午後外回りありますよね?もし良ければ私の折り畳み傘を使ってください。帰社後、戻してくれたら構いませんので。はい、どうぞ。」 「小倉部長ー!ありがとうございます!俺、部長の折り畳み傘もってたら100人力になる気がします!商談うまくいきそうな気がします!提示前には戻る予定なので、必ずお返しします!」 「はは、頼もしいですね。帰りに自分の傘を買ってから戻ってきた方がいいですね、今日は雨やみそうにないみたいです。」 彼は笑顔で分かりました!といい、私の傘を持ってまた外に元気よく飛び出して行った。 彼が犬だったら尻尾を大きく振ってそうだな、と笑ってしまった。
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