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「ただいまぁ、おばあちゃん今帰ったよ。
ねえ、救急箱ない?」
玄関を開けると、おばあちゃんがゆっくりやってきた。
「おかえりなさい、あら随分濡れちゃって。おや、誰だい、その子は。」
太郎君はなぜか私の後ろに隠れている。
「太郎君、さっき話してたおばあちゃんだよ、なんで隠れてるの?」
「ぼく、泥だらけだから家汚しちゃうから上がれなよ。」
そう言って家に上がるのをためらっている。
おばあちゃんは、太郎君に近づきじっと見つめた。
「あ!あんたは、山の子じゃないかい?久しぶりに見たねぇ。
あら、怪我までして。とりあえずうちに上がりなさい。」
そう言って、おばあちゃんは半ば無理やり家に連れ込み、傷の手当てをし、風呂場を案内した。
「タオルと、洋服はどの前に置いておくからこれに着替えてね。」
そう言うと、来客が嬉しかったのか、急いで食事の支度を始めた。
「おばあちゃん、あの子知り合いの子?」私は食事の支度の準備を手伝いながら聞いた。
「おや、何言ってるんだい、山の上にいるじゃないか。あんただって小さいころ会ったことあるだろう。」
「え?んー山の上に住んでる知り合いいたかなぁ。」
私は長期の休みになると、よくおばちゃんの家に遊びに来ていた。
なので、ここに住んでいる人たちに知り合いは多い。
そういえば見覚えがあるような気もする。
お風呂場のドアが開く音がした。
「これ大きすぎだよ。」
そこには、さっぱりとした太郎が私のTシャツと短パンをたぼつかせながら立っていた。
「やっぱりサイズ大きいよね。いま太郎君の服乾燥機に入れてるからもう少し待ってね。髪乾かそうか、ドライヤー持ってくるからその座布団の上に座ってて。」私はドライヤーを探した。
おばあさんはいつの間に出したのだろうか、来客用のふわふわの座布団を太郎君用に出していた。
私は太郎君の頭にドライヤーを掛けた。
「ねえ、太郎君のお父さんとお母さんは何の仕事をしているの?」
「ん~音楽家?よく仕事の人たちと集まって太鼓叩いてるんだ」
「太鼓?あ、ドラム?バンドかなんかやってるの?」
「そんなところ。すごくかっこいいんだ。」
太郎君はご両親のことが好きなんだろう。二人の話を嬉しそうに話した。
「早く帰ってくるといいね。」
そう言いながら、手で太郎君の毛を左右に揺らしながら髪を乾かしていた。
「あれ?」
頭部に小さなコブがあった。
これは、さっき怪我したときに頭を打ったのか。
「ねえ、太郎くん頭にコブあるけど、頭もぶつけたの?」
「ん?それは前からあるやつ。
なあ、美樹、これなんだ?ものすごく美味しいぞ」太郎は、いつの間にかバームクーヘンを食べだしていた。
「たしかにこの辺では売ってないよね。これバームクーヘンって言って、ドイツから来たお菓子よ。
生地が何層にもなっていて断面が木の年輪みたいになってるのよ。」
太郎君は断面を見ている。
「わあ。本当に年輪みたい、すごい!
ねえ、これ3つ頂戴!お母さんたちにも見せたいよ」
「おばあちゃんひとりで食べきれないから帰りに持ってきな。
はい、髪の毛乾いたよ!」
「こっちに来なさい、ご飯の準備が出来たよ」おばあちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
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