最後の姿

1/1
前へ
/1ページ
次へ

最後の姿

僕たちは、学校の裏手にある山奥にペットを飼っている。 ペットの名前は、タロウ。僕らはとても可愛がっていた。毎日のように、入れ替わり立ち替わり面倒を見ていた。 裏山の頂上付近には、ちょっとした穴が空いている。 円柱状の穴は、かなりの深さがあり、昼間でも奥底までうっすらとしか見えない。 タロウは、その底にいる。 タロウは、よく鳴いている。餌を与えると飛んで喜ぶのだ。僕たちは、嬉しくなる。学校で飼うのとは、違う。 僕たちだけのペットなんだ。 僕たちには、助け出せない。それでも大人に知られてしまうと、タロウとお別れすることになる。 ある日、大雨がふった。僕たちは、気が気じゃなかった。 溺れちゃうんじゃないか、埋もれちゃうんじゃないかって。雨があがると、僕たちは急いでタロウを身に行く。 僕たちは泣きながら、タロウの無事を喜んだ。 でもやはり濡れて寒そうに震えていた。 僕たちは、一枚ずつタオルを投げ込む。 タロウは、上から降ってきたタオルに喜んで一際鳴き声をあげた。 それでも、少し弱っているようだった。 毎日、多くの餌をあげるようにした。 僕たちは、たくさん投げ落とす。皆にこんなにも支えられるタロウが羨ましく感じた。 タロウは、それでも元気にならない。 なんでよ!とヒステリックぎみに女子は泣きわめく。 僕たちは、悲しかった。 次第に、起き上がる時間も少なくなっていた。それにつれて、僕たちも言葉が少なくなって、悲しい顔を浮かべるようになった。タロウ、タロウ、タロウタロウタロウと皆口々に呼び掛ける。 反応が薄くなって、あまり動きがなくなってくる。 僕たちは堪えきれなくなって、みんなの涙が伝って、底へ落ちていく。 今夜は、皆で見送ってあげよう。 誰かが一言呟く。 皆が、そうだそれがいい、といいだす。 僕もそれがいいと言う。 そうだ、そうしようそうしようそうしようそうしようタロウを見送ろう。ちゃんと飼えなかった僕たちはその責任がある。そうだそうだそうだ。僕たちは、ちゃんと最後まで面倒を見るんだ。そうだそうだそうだそうだそうだ。 皆の声が、こだまする。 なんか、一体感があった。皆一緒の思いなんだ。そう思えた。 夜、親に内緒で、家を飛び出す。 なんか、ドキドキしていた。 初めて、親に内緒のことをする。 夜、学校前で懐中電灯を持って集まる。 暗闇に照らされた皆の顔が新鮮で、ちょっと興奮した。 これから、皆で、一緒に冒険するみたいだった。 好きな女の子も来ていた。 その子も、一緒にこれから冒険をする。 私服を見て、胸がドキドキした。 ふと目が合い、僕はもっとドキドキする。 僕は、悲しいね、と呟くと皆が頷いてくれた。僕たちは今日大事な事をするんだ、そう思っていた。 裏山は、真っ暗で、色んな音がした。 虫の音、木や葉っぱの音、動物の鳴き声。 皆の歩く音。 静かにしていると、どこかさ迷いこんでしまうみたいで、皆おしゃべりが止まらなかった。歌も歌った。静けさに負けないように。 僕たちは、ついに頂上へ着いた。 懐中電灯を思い思いに、巡らせて、その穴を見つけた。 僕たちは、その淵でタロウを呼び掛ける。 寝てしまったのか、それとも。 底へ懐中電灯を、向ける。 女の子たちは、皆声をあげて泣き出す。 僕たちは、初めて触れた死というものに、深く動揺した。 僕たちは、皆で決めた歌を歌った。 Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are. Up above the world so high, Like a diamond in the sky. Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are. 歌い終わって、皆で、お別れの言葉を口にする。 ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。 皆で、途中で摘んだお花を投げ込む。 ごめんね。ごめんね。ごめんね。ごめんね。 花をたくさん入れた。 ごめんね。 そう言われた気がした。 後ろから、ドンッと強い衝撃を受けた。 僕は、つんのめって、つんのめって、穴へ落ちる。 僕は振り返る。 そこには、誰かがいた。視界はくるくる回る。くるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくるくる。 頭と背中と腰に、激しい痛みが襲った。 聞いたこともない大きな音がした。 体が跳ねる。 体中が、悲鳴をあげるように痛むのに、口からは何も出てこない。 呼吸ができない。苦しい。目がパチパチした。 視界の奥で小さな穴が、丸く開いていた。 そこからは、満点の星空を凝縮したような、景色が見えた。まるで降ってきそうな。 パチパチする。星空がパチパチする。 白く輝いたり、赤く光ったり、黄色く瞬いたり。 遠くから声が聞こえる。 Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are. Up above the world so high, Like a diamond in the sky. Twinkle, twinkle, little star, How I wonder what you are. うっすらとした景色のなかで、僕は、お空に向かって手をあげようとする。 誰かが、遠くで声をあげる。 タロウが動いた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加