種類

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その日、生物学者のA博士は自分の研究室で頭を抱えていた。 「なんてことだ。全然わからない」 実は一月ほど博士はこの言葉を繰り返していた。 博士の眼前には巨大な画面があり、狭いケースに入れられた二匹の生物の姿が映し出されていた。 二匹の相性は悪くはなかった。 観察初日は二匹分の餌を与えたが、二匹は等分に分けあって食べていた。 次の日は一匹分のみを入れたが、二匹は一日目と同じく争うことなく少ない餌を分けあった。三日目には何も入れなかった。空腹である筈の二匹は共食いをするかと思いきや、そんな気配も見せず、設置された水を譲り合いながら飲んでいた。それ以降は二匹分の餌を入れて観察を続けた。しかし、何も変わりがないまま時間だけが過ぎていた。 ━━━━二匹は仲が良い。それなのに何故…… 「二匹は交尾をしないんだ」 博士は恨めしく画面を眺めていた。画面の中の二匹は、互いに顔を見合わせて会話でもしているのか、口を動かしている。 今日も諦めて寝ようか。 博士が画面から離れようとしたとき、博士の助手のB君がやって来た。 B君は博士の顔を見て「またですか」とため息をついた。 「何か分かったんですか?」 博士は静かにうつむいた。 「何も変化はなかったよ」 「実は種類が違うとかでは?」 「そんな事はないさ。同じ形状、同じ色合い、同程度の年齢と体格だ。棲んでいたエリアも離れていない。むしろ君、これが違う種類だという証拠を見せてくれ」 「まだ成熟していないとかでは?」 「いや、他に小さなものも居たからそれに比べると随分と大きいし、毛並みもいいから若いのは確かだ」 「実は家族で、血が濃いから交尾を避けるとか」 「いや、こいつらは全く別の家族を持っていた。それはない」 「ではもしかして……」 B君は少し考えた。 「愛がポイントかもしれませんね」 「愛か」 博士は顔を上げて画面を見た。先程と変わらず、二匹は仲良く喋っているようだ。 「なるほど。愛がなければ交尾をしない種類、ということか。美しいな。我々と同じ素晴らしい生き物なのかもしれないな」 「だとしたらまだまだ研究が必要ですね」 「君はそれで良いのか? 本当に長くなるぞ?」 「かまいません。何より私は博士と一緒に居たいのです」 そう言ってB君は顔を赤らめ、恥ずかしそうに下を向いた。 「B君、愛してるぞ」 思わず博士はB君を抱き締めていた。 性別を持たないカタツムリ星人の二人は知らなかったのだ。画面の中の生物にはオスとメスという種類がいることを。
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