女性は父親に似た人を選ぶのか

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「お義父さんって、俺と似てるところあるかな?」 そう夫が口にしたのは夕飯後の片付けをしている時だった。 私は皿洗い、夫は炊飯器に残ったご飯を冷凍保存してくれていた。 「うーん、どうかな? 全く共通点がないとは言わないけど・・・」 どうしたの?と視線で問えば、こんな返事が返ってきた。 職場の先輩の話だ。 先輩には娘さんがおり、 会わせたい人がいると彼氏を連れてきた。 これが男性の先輩が見てもビックリするような美青年で、かつ職業は医者。 イケメンではあるが、チャラチャラしているわけではなく、話してみても非常に誠実な印象を受けたという。 どこで知り合ったのかと聞けば、 娘さんの行きつけのケーキ屋さんで知り合ったと言う。 「お父さんが好きな辛めのブランデーケーキが、この人も好きなのよ」 紹介された時点から文句のつけ所が見つからなかったが、この一言で、先輩は苦笑するしかなくなってしまったという。 「可愛い娘を奪っていくかもしれん男だ。 本当はケチの一つもつけたかったんだがな」 休憩時間に先輩は笑いながら、でも少し寂しそうに話していたそうだ。 「女の人が、自分の父親に似た人を選ぶって話はよく聞くけど、うちはどうなのかなって」 なるほどなと、私は実家の父親を思い浮かべる。 父親は絵に書いたような亭主関白だ。 父親の言うことは絶対。 良くも悪くも取り繕わない、 言いたいことはズバズバ言う父は嫌いではない。 しかし、思春期を迎えた頃から、 父のデリカシーの無さに苛立ちを覚え、 遅めの反抗期をいまだに引きずっている。 ここまでの自己分析はできているので、 あくまで冷静に、客観的な返答を心掛けてみた。 「似てないところが多いけど、 根本的には似てるのかなと思ってる」 「と言うと?」 「世代的なところもあると思うけど、 うちの父親は『男子、厨房に入らず』だから。『男は外、女は内』。うち農家だから、共働きみたいなものなのに」 ご飯の冷凍保存を終え、洗い終わった皿たちを拭き始めてくれた夫にありがとうと、次の皿を手渡した。 「うーん、そのあたりはうちの実家はみんなでやってたからなー。 母親が指示出して、父親も一緒にやる、みたいな」 「私にとってはドラマの中の世界だったな、それ」 こんな風に、夫と二人で台所に立つことも、子供の頃は想像できなかった。平成の家庭としては、私の実家の方が特殊だったのかもしれないが。 「だから、あなたと結婚して、カルチャーショックを受けたり感動したりしていました」 「そうだったんだね」 私が言えば、夫はなるほどと真顔で私を見てみてきた。今までに、私が手伝いを遠慮したり、少しやっただけで大袈裟に感謝したりしていたことを思い出したようだ。 「じゃあ根本的に似てるというのは?」 少し考えてから、私は 「自分で納得しない限り、自分の意見を曲げないところ」 と答えた。 他にも例を色々挙げてみたが、 「ようは、頑固で、融通が効かないって言いたいわけね」 としょぼんとされてしまった。 初志貫徹と言えば聞こえはいいが、 まぁ、そうとも言う。 私の父親と夫は多くの部分が違う。 父親はお酒が好きで、酔っぱらっては喋り倒している。 夫はお酒を全く飲めない。よって、酔っぱらうことはほぼない。素面でも寡黙なタイプだ。 父親は人付き合いが好きだ。 知らない人とでも楽しく話し、すぐに親しくなる。人間関係は、多くの時間を費やして、互いに腹を割って話すことで、深まると考えている。 夫は、そもそも人付き合いをあまりする気がなく、よほど懐に入れた人間にしか本心は明かさない。人間関係も、必要最低限。長々としたおしゃべりに時間を費やすことは、もったいないと考えている。 そもそも、元は全くの他人だ。 娘の夫と、妻の父親。 話が合えば一番だろうが、合わないタイプの場合だってあるだろう。 それでも。 女性が父親に似た男性を選ぶのか可能性は高いのだろう。 いわば、刷り込みに近い。 良くも悪くも、最初に記憶に留める「男性」というサンプルだ。また、ざっくり言ってしまえば、全くの同一人物がいないように、全く共通点のない人物もいない。 大なり小なり、探せば1つ位は共通点があるものだ。 だいぶ味気ない話になった。 寝室の布団の中でこんなことを考えていたら、 夫はいつの間にか眠ってしまっていた。 先程はしょぼんとしている様子が可愛くて、 訂正をいれることができなかった。 「自分で納得しない限り、自分の意見を曲げないところ」 この部分は、反抗期を引きずっている私が、今でも父親のことを尊敬していると言える要素なのだ。父親は、誰かの説得には応じない。けれど、自分でとことん調べる、分析する、追求する。 夫はその点で、喧嘩する時、本当に厄介な相手だ。それでも、この人となら、ずっと一緒にやっていけそうだとよく思う。 誰かを選んで、そばにいる。 それって、結局そういうことなのかもしれない。
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