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夜の浜辺を、二人の少年が歩いている。
一人は美しい金髪を腰までなびかせ、もう一人は短い黒髪だった。
金髪の少年が言った。
「ほら、もう来るよ」
星が降る。
小さな輝きが、ゆっくりと尾を引きながら海辺へと落ちる。
薄く淡い色をした、小指の先ほどの儚い塊が、ぽつりぽつりと落ちてくる。それらは全て、絵に描いた星のような尖りのある形をしている。
二人の少年は、一つずつそれを拾った。拾って、腕に抱えた壺のなかへ入れていく。
その間にも、次々と輝きは流れ落ちてくる。
「なあ、水瓶」
黒髪の少年が、金髪の彼の名前を呼んだ。
「何?」
「……これ、やっぱり町へ行って売るのか?」
「そうだよ? いつもそうしてきたじゃないか」
「……」
黒髪の少年は、何故か不満げだった。空から落ちてきた美しい輝きにも、目を曇らせたままだった。
「……水瓶は、こんなことしてて飽きないのか」
「え?」
「だって、もう5年だよ。僕らがこの仕事を始めてから」
「もうそんなに経つのか」
「ああ」
黒髪の彼は続けた。
「このなんだかよくわからない宝石を、町へ行って、売りさばいて……最初は良かったけど、この仕事に意味はあるのかって」
海辺に落ちるこの星屑も、いつの間にか彼にとっては退屈で無意味なものになっていた。
金髪の少年――――水瓶は言った。
「蠍は、この仕事が嫌い?」
と、黒髪の彼の名を呼ぶ。
「嫌いっていうか……もう、つまらない作業でしかない」
「へえ、そう」
水瓶は長い髪を翻すと、蠍のほうを向いた。
「僕は、この欠片みたいな粒を売って、お金になって、それで生活していければ何も問題ないわけ」
そう言いつつ、首を傾げた。
「でも、蠍がつまらないって言うなら、つまらないってことなのかなあ」
水瓶ははっきりしているようで、ぼんやりしているような、曖昧な言い方をした。
「……この先ずっと同じ毎日が続くことに、飽き飽きしてしまうんだ、僕は」
蠍が言うと、水瓶は目をしばたかせた。
「じゃあ、やめる?」
「えっ」
「今日でもう、この仕事、やめる?」
「……」
狼狽える蠍に、水瓶はまた言った。
「そんなことも答えられないんじゃあ、なあ」
それを言われた蠍は黙って突っ立っていたが、ふいに水瓶は拾い上げた輝きを見つめた。
「……確かにね。僕たちは5年も同じことをしていたんだね。なら、今日くらい、何か変わったことをしてもいいのかな」
そう言うと、彼は輝きをじっと見つめた。何をするのかと思っていたら、
突然、彼は輝きを口に含み、飲み込んでしまった。
「え!?」
慌てて蠍が駆け寄る。
「なんだよ!? そんなもの食ったりして……!?」
「甘い!」
と、水瓶が目を見開いた。
「蠍、これ、なんか甘いよ! 食べてみなよ」
「ええ……?」
蠍はおそるおそる、同じようにそれを口にすると、驚いて声をあげた。
「本当だ……」
「僕らはこのことに何年も気づかなかったのか」
「だって宝石を食べる奴なんか、この世にいるかよ」
「なんだろう。これは石じゃなくて、未知の食い物だったのかもしれない……」
そのまま水瓶はその粒をがりりと噛んだ。
そして言った。
「ねえ、蠍。さっき、この商売はもう飽きたって言ったよね」
「あ、ああ……」
「なら、提案があるんだけど――――」
その後、町で二人の少年が菓子屋を開き、星形の小さな甘い菓子を売り始めたそうな。
その菓子の名は、『こんぺいとう』だと伝わっている。
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