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雨が小降りになったのを見計らい、ばあちゃんが暮らす介護施設へ足を向ける。 そこは高台で見晴らしがよく、近くには風光明媚な公園があった。 休日には家族連れの楽しげな声が届いてくる。 だがいまはあいにくの悪天候、ひとっこひとりいない。 施設入り口の紅葉樹も哀しげに葉っぱを散らせている。 「今日も来てくれたんですね」 軒先でビニール傘を畳んでいると声を掛けられた。 年季の入った玄関の向こうで、吸いのみをもった看護師がいた。 胸もとの名札には、松原(まつばら) (はるか)と書かれている。 おれは会釈して来客用スリッパに手を掛けた。 松原はおれのばあちゃんの担当看護師で、かなり若い。 看護大学を卒業してから、すぐにこの施設を希望したらしい。 「どうしてこんな辺鄙な場所に」と嫌味を言ったら「ここが良かったんです」と儚げに笑った。 彼女のおじいさん、ここで亡くなったんですよ。 これは所長から聞いた話。 こんな田舎に夢や希望は見当たらないものの、変態ジジイにセクハラされてもめげずに働くその姿は、荒地に芽吹く一輪の華のようでもある。
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