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おれは現在、雨の幽霊に取り憑かれている。 そいつの名はレーム、なぜかネクタイにスーツ姿という出で立ちなのだ。 理由を尋ねたらホスト通いに夢中だった元宿主からのプレゼントということらしい。 「しかし、俊介。おまえは物言わぬ貝のように無口だな」 おおきなお世話だ。おれは激しく後悔した。 なぜあのとき、用心しなかったのだろう。 それもこれもちびのせいだ。 勝手に家を飛び出したあいつを探して、やっと河川敷で鳴き声が聞こえたと思ったら、見知らぬ傘のなかで丸くなっていたんだ。 そして傘を拾いあげた途端、こいつに取り憑かれた。 「もしかしたらおまえは、物語の紡ぎ手として、無意識に言葉を自制しているのかもしれないな。いつか素晴らしい物語が産声をあげた暁には、ぜひとも披露してほしい」 そんな日が来るとは思えなかったが、おれはあいまいに頷いた。 まっすぐ家に帰る気になれずに坂道をくだっていく。 シャッター街に人や車の往来はなく、アスファルトの道路表示もほとんど消え失せている。 なけなしのおこずかいを握りしめて通ったパン屋や駄菓子屋だって、もうない。 記憶は蘇れども、どれもこれも過去に繋がるものばかり、すべてが停滞している。 ここは滅びゆく町だ。
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