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けれども悠真はそれっきり、帰ってこなかった。 バスケ部の悪友や付き合っていた彼女。 だれに連絡してもゆくえ知れずだった。 やがて警察の捜査で分かったことは、悠真がこの河川敷沿いを歩いていたこと、泥だらけのスニーカーが投げ捨てられていたことだけだった。 おれは生きた蛇のようにうねる濁流を見つめる。 あいつになにがあったのか。それが知りたかった。 なにかの事故に巻き込まれたか、それともなにかの拍子に川に落ちたのか。 またはこの世に絶望して、自殺したのか。 おれは傘の先に広がる曇天の空をみあげる。 この世界は、ちっぽけなおれたちなんて見向きもしない。 この南方町だってそうだ。 おれたちの存在なんて忘れて、みんなのうのうと生きている。 もっとだ、もっと降れ。 おれは心のなかで叫んだ。 なにもかも飲みこんで、無に還してしまえ。 「ならば、確かめてみるか」 「……え」 レームは秋風のように呟くと、青い傘に吹かれるように河原沿いに向かった。 まるでメリーポピンズだ。 その背中はあっというまに遠のいてしまう。 「おい」 追いかけると猛烈な風に体勢を崩された。 もはや台風だ。 横殴りの雨は裾をみるみる濡らしていく。 気をつけないと石に躓いて大怪我する。 レームは荒れ狂う濁流をじっと眺めた。 まるでそこに落ちている未練を見定めるように。 だがよくみると足元に緑色の生物がいる。 眼を凝らすと、そいつはカエルだった。 ほっぺたの袋をふくらませながら、爪楊枝のような手でぺちぺちとレームの革靴を叩いている。 「そうか。そういうことか」 レームはなにかを呟いたが、傘の表面をたたく雨音でかき消されてしまった。 雨はまだ止まない。
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