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おれはその晩、風邪を引いた。
痰がらみの咳に粘っこい鼻水、それから軽い喉の痛み。
熱は37度と微熱だったのが、せめてもの救いだ。
「おまえは、弟に似ているんだ」
ドライヤーで髪を乾かしながら、背後で腕を組む幽霊に語りかける。
くぐもった鏡に反射する背後には、白壁のみが写っている。
「これは偶然なのか」
「分からない。わたしは自分の顔を見たことがないのでな」
幽霊は鏡や写真に映らない。
つまりは自分の姿を確かめられないということだ。
「ただな、歴代の宿主は決まって、大事な者に似ていると言う。もしかしたらわたしは、宿主の心が望む姿を借りて、この世に出現するのかもしれない」
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