神の休日

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 神無月。  それは神が下界から姿を消して天界でしっちゃかめっちゃか馬鹿騒ぎする日である〔天界の1日は下界の1ヶ月)  いつもは尊く、厳かなる者として振る舞う神様達も今日ばっかりはしっちゃかめっちゃかにはっちゃける。  ほら、あの天照大神が酒瓶片手にポールダンスしてる。聞くと、30年前から忙しい中コツコツと練習していたらしい。オーディエンスで、兄弟の素戔嗚や月詠が豪快にワイン樽で呑みながら、バカにするように腹を抱えて笑っている。おそらく後で天照に仕返しされるだろうと、後ろで大国主が太縄に縛られながらニヤニヤしてる。  また違う所を見ると、八岐大蛇と風神雷神が大学生みたいな騒ぎ方をして酒を呑んでる。ギャラリーも煽りに煽りを入れている。その上何があっても良いように大量にバケツを用意していた。彼ら(あの神々)は二日酔い確定だろう。  ほらあそこでも、イザナミに974回目の求婚を申し込んだ八幡神がイザナギと揉めに揉めた挙句にイッキ呑み対決をしている。イザナミ曰く、「酒が弱い男には魅力がない。だからとりあえず、飲んで実力を示せ。それでそこのイザナギに勝ってみせろよ。もしも勝てれば......」 イザナミが少し服を爛れさせると八幡神は立派な鼻息と共に酒樽に口を付けた。するとイザナミは嬉しそうに、「そーれーまーたー飲んで飲んで〜♪飲んで飲んで〜♪そらイッキじゃなーーーきゃ男じゃなぁ〜い♪」と手をパンパン叩いてコールするとギャラリーも笛と太鼓でリズムを作って、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。彼ら(イザナギと八幡神)も二日良い確定だろう。  さて、そんな上級神達(バカ者)のお話しはこれくらいにしよう。タイトル通り今回は雨の神様にフォーカスを当てよう。また『酒乱神大乱闘事件』や『第3458次天界事件』、『太平洋戦争時アメリカの底力考察会』を見たいって人はまたの機会にお願い致します。  さて、雨の神様といってもたくさんいる。なんせ八百万だからね。そんな中から読者が面白いと思うようなお話しを見ていこう。  「はぁぁ、やっあと休みだわい」  「ワハハ!!1年振りの休みだからなあ。今日は1日中呑み明かそうぜ!!!」  雨神浄土(あまがみじょうど)が肩を揉みながらジジ臭く言うのに対して雨野巨人(アマノオオヒト)が豪快に笑い浄土の肩をパシンと叩く。  「ケケケ、にしても1年に1回しか休みがねぇとはとんだブラックだな神様ってのも。元人間の浄土にはキチ過ぎるかぁ?」  「全く持ってその通りだ。八百万の神とは本来疲れなどという動物的概念は存在しない。にも関わらず疲れてるとは流石にいかがなものか」  雨雲雷鬼(あまぐもらいき)は浄土を笑い、雨龍郷座(あまたつごうざ)も同意する。  「やかましいわい。儂は元々仏門出じゃからお主らとは構造が違うのじゃ」  「ケケケ、龍って動物じゃねぇのかよ」  「なにを戯けた事を吐かすか。龍とは自然現象の権化であり、生命的活動をおこなわざ  「そんなことどうでもいいわなあ!!!とりあえずいつもの店行こうぜ!!」  「こら、儂の話しを無視するでない!」  そんなこんな話しをしていると御目当ての店についた。    酒屋どしゃぶり。アメリカの西部劇で出てきそうな外観で内観もそれに合わせてか大樽の椅子がある。ドタッドタッと足音を立てて入ると厨房から俊敏に店員が飛び出してきた。  「いらっしゃいませ!お!雨神四天王の皆さんじゃないっすか!おひさデース!」  「おう!!久しぶり!1年振りだな!!!」  「ちょ、巨人さんあいかわらず声やかましいっす。静かに喋ってくださいよ〜」  「おん?かなり小さく喋ってたつもりなんどけどなあ!!ワッハハハ!!!」  「ケケケ、ちなみにマジだぜ。2000年前からこのバケモンの声聞いてる俺の判断だと、まぁ昔の10分の1以下ってとこだぜ」  「うっわーマジっすか。雷鬼さん羽振り良さそうでムカつきますけど苦労してるんすね」  「そうじゃ気になっておったがなんじゃその金ぴかのサングラスは!去年は付けてなかったじゃろ!しかも全身赤のスーツときておる。鬼らしいのか鬼らしくないのか。どっちかと言えば極道もんみたいじゃ!」  「ケケケ、おいおい勘弁してくれよ〜神たる者己を立派に着飾ることは当たり前だぜ?てか神楽、お前後で親方にチクるぞ?」  「うっへぇ!そりゃないよ雷鬼の旦那!てかよく見たらめちゃめちゃカッコいいっす!超エレガント!キャー!抱かれたい神ランキング第1位!!」  神楽と呼ばれた店員はそう言うと厨房にダッシュで避難した。危険を察知する能力は一級品。かと思われたが、厨房から聞こえる怒鳴り声と悲鳴を聞くとそうでもないらしい。顔立ちは良いのに残念っ子だ。  「......それにしても雷鬼、本当に羽振りがよさそうであるな。今年の大雨祭りも1番客入りが良かったと聴くが、何か秘訣でもあるのか」  「それじゃ!儂もそれを聞きたかった!秘訣があるなら後でこっそり儂にだけ教えい!」  「ケケケ、そんか姑息なこと考えるから客入りが悪いんだ」  「ワハハ!!!たしかにな!!にしても俺も少しは気になるぞ!!俺ら数千年来からの友にくらいは教えてくてても良いではないか!!?」  「騒々しいぞ巨人。ツバを飛ばすな、すごくかかっただろう。神の端くれたる者なら落ち着け」  「あっのぉ〜オーダー聞いてもいいっすか?」  見ると神楽の小さな頭に不釣り合いなほど大きなタンコブが鎮座していた。おそらく親方にゲンコツでも喰らったのだろう。  「ケケケ、いつもの4つ。あとなんか面白そうなもん作ってたらそれも頼むわ」  「面白そうっていうなら当店オリジナル新メニューの”どしゃぶりカクテル”はいかがっすか?めちゃめちゃ美味いっすよ?」  「カクテル?そんな洒落たもんいらんわ。焼酎でも適当にー「まあまて。呑まず嫌いは神としてよろしくはないだろう。いくらか呑んでみて嫌なら変えればよかろう」  「でもしかし神楽ー「たぶん浄土さんも気にいる味だと思うっすよ?別に甘いとかじゃないんで」  「ふん、そう言って去年もー「おいおい!!ここまで勧めてくれてるんだから1回呑んでみたらいいだろう!!ゴネるは損だぞ!!!」  「......しかたあるまい。少し呑んでみようか」  渋々といった顔ではあったが了承されたので神楽はほいほいと他のオーダーも聞いて厨房に下がっていった。なので神楽が今年も悪い顔して笑ってたのは誰も知らない。少し経ってどひゃぶりカクテルと焼酎を始めとした酒が届き、多くのつまみも来た。それらを呑み食いしながら話しをしていると、郷座が話しを戻す。  「それでどうなんだ、羽振りがいい理由は」  「ケケケ、なんだいまだそんなに呑んでもいないのにそういう話かい?勘弁してくれよ~1年に1回しかない休日だぜ。もっと楽しい話しでどんちゃんやろうぜ」  「けっ何言っておるんじゃ!去年もそうやって言って逃げたじゃろ!いいから教えい教えるまで儂は神無月せんぞ!」  浄土が言うと他の2柱も身を乗り出してきた。よく見ると3柱とも80年前から同じ服装をしていた。ずっと経営が上手く行っていないのだろう。  「ケケケ、しゃあねぇな!貧しい神達に1つ教授となってやるか!手始めに今年の大雨祭りの時どういう風にやったか教えろまずは言い出しっぺ浄土」  「そうじゃなあ、儂は少々古風な性格だからあまり革新的な事はせぇなかった。儂としては時代に合わせるをモットーとして大雨祭りに挑んだつもりじゃ」  ぴしゃあぴしゃあざーざーぴしゃあぴしゃあざーざーと振り付ける大雨のなか、儂は雨神神社は質素に堅実な昔ながらの祭りを開いた。しかし、これだけじゃあ最近のわかもんは全く興味を示さない。だから儂はわかもんの大好物を大量に出店で出したんじゃ。ほら、最近流行りのタピオカミルクティとパンケーキじゃ。あれを出店全体の40%に配置した。大きな賭けじゃった。儂は清水の舞台から飛び降りるつもりでやった。が、結果は散々じゃった。去年の半分程度しか売り上げがなかったのじゃ。クソッタレめい!  「どうして、どうして儂がこんな目に。今年こそは大売り上げて、天女のねえちゃんとイチャイチャうふふなことしたかったのにーー!!!!!」  狂ったように机にヘッドバンキング。  それを見ていた3柱は嘲りの笑みを浮かべた。  (ふん、神たる者が人の趣向に合わせた事をするから良くないのだ。全く俗物が。そもそも、ぱんけーき何ぞ童のおやつでも不足すぞ。そんなものが売れるわけなかろう。たぴおかなんとかは知らんが不味そうな名よ)  (ワハハハ!!こやつ、よくわからん流行を追いかけるからしっぺ返しを喰らうんだ!!バカモノめ!!!なにがたぴおかじゃ!!なにがパンケーキじゃ!!祭りにそんなもの求めるやつはいないだろ!!)  (ケケケ、そりゃあ失敗もするわな浄土も。普通の祭りならともかく。大雨祭りにタピオカミルクティだのパンケーキだのは不向きだろ。そもそもターゲット層が女子高生じゃなければそうそう売れないだろバーカ。ひっく」  「ケケケ、なるほどな。じゃあ次は郷座だ」  「うむ、私は神としての責務を果たすべく古来からのしきたりを重んじる性格である。そのため、私は古き良き日本がモットーである」  しんしんと降る雨は、やがて年に1度の大雨祭りに拍手喝采するかのように大雨を降らせた。大雨とは古来より好まれないものであったが、この日だけは大雨を人々は喜んだ。時代は変わろうとも変わらないものがある。それは人の真心だ。そのため私は変に小細工を弄すことなく、昔ながらの神事を行った。私を催した踊りに、私を現した歌に、私を記した物語を読み上げ、私を..................以上97の神事を津々がなく行った。にも関わらず昨年より売上が少ない。何故だ、私は全身全霊で人のためにしてやったのに。この恩知らずめ!  「ふざけるな!ヒトめ!1475年前に救ってやった恩を忘れたカ!恥を知れ!!ひっく!」  歯を食いしばり握り拳を作ると大きな息を吐いた。  (なんじゃこイつ阿呆か。そんな長々トした神事なんて退屈この上ないじゃろウニ、ひっく」  (なんだなんだ堅物郷座もここまで来たらアカンのアで遺憾イであろう!!ワハハ!!!)  (ケケケ、コいツが1番の阿呆ジャねェカ。夜間大学に行かセても無理だろウなひっく、ひっく)  「ケケケ、ンじゃお次は巨人だなァお前は何をしタのか聞かせてクれよ」  「おうとも!!俺は祭りは楽しむものだと思っておる!!楽しければ自然と人は集まり!!自ずと売上が上がること間違いなし!!だから他のメンツに合わせるて言うんだったら楽しみ楽しませることがモットーだな!!!」  ガシャンバシャンジャージャージャ!!!と大雨が大地に降り注いだ!!そんななか雨野神社は酒呑んで踊って!酒呑んで歌って!酒呑んで騒いで!酒呑んで熱狂!!酒酒酒酒酒!!!!酒は人を素直にさせる!!呑んで食ってストレスを殴り飛ばーす!!!現代社会はストレスとの戦争社会だ!!そんなストレスに打ち勝つ続ける人が!!大雨なんぞに遅れを取るわけがないだろう!!!ガハハハハ!!!!  「だから売上とか気にせず呑んでるな!!ガハハハハ!!!」  (こイつは脳筋だったナ。単細胞め。こレで儂より売上があるんダから憎ったらシいことこの上なシじゃ!ひっくひっく」  (アる意味一番神らしイとは言エるが…ひっくひっく)  (zzzzzzzzzzz)  ガーゴーガーゴ―!!と雷鬼がいびきをかいていた。  「は、はぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!?寝てルだと!?もう潰れてるジャと!!!!!まだ始まって2時間程度ジャぞ!?鬼のくせにナニ酒に呑まれてるん……ジャ?」  急激な睡魔に襲われた浄土も眠りに落ちた。  「ど、どういうことか。三日三晩呑み続けられる雷鬼と浄土が一体な、なにが原因で……ま、まさか!」  「はいはい郷座さん全然呑んでなくないすっか~?自分が協力してあげるっす!」  神楽はニコニコした顔で郷座の後ろに回った。手にはどしゃぶりカクテル(6種類のスピリタス96%の配合)を樽ごと持って。  「な、神楽。お主―うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっぐ」  「はいなーに持ってんの?なーに持ってんの?呑み足りないから持ってんの~♪」  バタっと眠りに落ちる郷座。それを見ている巨人は大笑い。  その後すぐ巨人も眠りに落ちた。  「ふー、一件落着っす~。あーほかのお客様!先ほどまでの騒音大変申し訳ないっす!ただいま静かになりましたので存分にお楽しみくださーい!」  ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちっとほかの席に座っている客が一斉に拍手した。それはもう拍手喝采って感じで。で、そこで寝ている雨神達(ドアホ共)も当たり前に二日酔いになったとさ。ちなみにこのとき雷鬼は神楽にサングラスを盗られている。このことが原因で、まさかあんなことになるとは神楽はまだ知らない。いや、知っていても盗っていただろう。それが歌舞のように神達を盛り上げることになることを知っているからだ。  神は退屈に飢えている。たった一日の休みでさえ有意義に過ごせないくらいに。だから神は酒を呑む。  退屈凌ぎに。  神楽は来年の神無月を楽しみに嗤う。  次の日、神楽は雷に撃たれた。全治15年だとさ。                  
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