2人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
黄泉の国に来てからずっと、謎の焦燥感に襲われる。
私が焦燥感を覚えたのは黄泉の国に入る前、並行世界が一望できるここに立ってからだった。
1週間前、黄泉の国から見える並行世界に私が見たもの。正直、思い出したくない。けれど、あの光景は、私の目に、くっきりと、はっきりと、映されて、何かの拍子に今も思い出す。いくつもの並行世界で私の友達や、仲間が一斉に死んでいくのを。
あの日、私が死んだ日、私の街に星が降った。
美しく輝く「星」は、大気の中を突き抜けて、そのまま「隕石」に変わって。
誰も予想していなかった。
いいえ。予想していた人はいた。
あの日、街の占い師が逃げた。
「星が降る。街の者は死ぬ」と。その占いを信じた者は占い師以外にいたのだろうか。
―きっといなかった。なぜなら、街の皆がここにいるから。
「第6世界の文野羅衣さん。どうしたんですか?こんなところで」
耳に、心地いい低めの男の声が届く。
見た目は20代くらいの、白いTシャツに黒いパーカーを着て焦げ茶色のズボンを履いている、威厳ゼロの男の声。
ついでに言うと、もう少し明るいとチャラ男に見える、焦げ茶色の髪に焦げ茶色の目。
本当は何歳か、分からないけれど。だって、歳を取らないらしいから。
「パラレルワールドが見えるのはここだけだから。『第6世界の』ってつけるの、やめてくれる?私は羅衣。私は、私よ」
「確かに、パラレルワールドが見えるのは黄泉の国入り口のみですが。また、あなたがいくらあなたでも、羅衣さんはパラレルワールドごとに何人もいるんです。ここは全てのパラレルワールドとつながる黄泉の国入り口。どこの世界かを言わないと、わかりませんよ」
「そうかもしれないけど……」
「ね?」
サラッと言う、この感じがイラッとする。
気に食わない。
「……早く、黄泉の国のパトロールに行きなさいよ。あんた、黄泉の国の監視担当なんでしょ?神」
「そうですが。……私、神ですけど、一応名前があるんですよ」
「そうなの?」
そんなこと、興味ないし。
適当にあしらっておけばいいか。
「ええ。『サーテ』という名前が」
「サーテ。ふーん。『さて』みたい。とぼけてるみたいね」
「『さて』ですか。酷いですね、羅衣さん」
「そう?どうでもいいわ」
「どうでもいい……」
「私、帰る」
「あ、帰るんですね。送っていきましょうか?」
「いい。仕事、あるでしょ?」
「ええ。そうですが」
「じゃあね」
「あ、はい」
最初のコメントを投稿しよう!