黄泉の国の入り口から見える景色

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 黄泉の国に来てからずっと、謎の焦燥感に襲われる。  私が焦燥感を覚えたのは黄泉の国に入る前、並行世界(パラレルワールド)が一望できるここに立ってからだった。  1週間前、黄泉の国から見える並行世界に私が見たもの。正直、思い出したくない。けれど、あの光景は、私の目に、くっきりと、はっきりと、映されて、何かの拍子に今も思い出す。いくつもの並行世界で私の友達や、仲間が一斉に死んでいくのを。  あの日、私が死んだ日、私の街に星が降った。  美しく輝く「星」は、大気の中を突き抜けて、そのまま「隕石」に変わって。  誰も予想していなかった。  いいえ。予想していた人はいた。  あの日、街の占い師が逃げた。  「星が降る。街の者は死ぬ」と。その占いを信じた者は占い師以外にいたのだろうか。  ―きっといなかった。なぜなら、街の皆がここにいるから。 「第6世界の文野(ふみの)羅衣(らい)さん。どうしたんですか?こんなところで」  耳に、心地いい低めの男の声が届く。  見た目は20代くらいの、白いTシャツに黒いパーカーを着て焦げ茶色のズボンを履いている、威厳ゼロの男の声。  ついでに言うと、もう少し明るいとチャラ男に見える、焦げ茶色の髪に焦げ茶色の目。  本当は何歳か、分からないけれど。だって、歳を取らないらしいから。 「パラレルワールドが見えるのはここだけだから。『第6世界の』ってつけるの、やめてくれる?私は羅衣。私は、私よ」 「確かに、パラレルワールドが見えるのは黄泉の国入り口のみですが。また、あなたがいくらあなたでも、羅衣さんはパラレルワールドごとに何人もいるんです。ここは全てのパラレルワールドとつながる黄泉の国入り口。どこの世界かを言わないと、わかりませんよ」 「そうかもしれないけど……」 「ね?」  サラッと言う、この感じがイラッとする。  気に食わない。 「……早く、黄泉の国のパトロールに行きなさいよ。あんた、黄泉の国の監視担当なんでしょ?神」 「そうですが。……私、神ですけど、一応名前があるんですよ」 「そうなの?」  そんなこと、興味ないし。  適当にあしらっておけばいいか。 「ええ。『サーテ』という名前が」 「サーテ。ふーん。『さて』みたい。とぼけてるみたいね」 「『さて』ですか。酷いですね、羅衣さん」 「そう?どうでもいいわ」 「どうでもいい……」 「私、帰る」 「あ、帰るんですね。送っていきましょうか?」 「いい。仕事、あるでしょ?」 「ええ。そうですが」 「じゃあね」 「あ、はい」
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