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僕が顔をゆがめて絶叫したのに、梶先輩は構わず淡々と続けていた。
「お前がさっき言ったように、甘やかして溺愛してるとかしてないとか」
「……わかる……。だって可愛いもん。梓先輩って初で純粋ですもん! 僕と付き合ってた時も『セックス好きじゃない』って言ってたけど、あれは前の男が下手くそだったんですよ、きっと!!!」
「お前さ、その弁護士センセイと話合いそうだな。知らんけど。俺もう聞いてらんない」
梶先輩が呆れた顔で焼酎をあおっていた。この日をもって「宮恋会」は解散した。
入社4年目、僕にも副主任なる肩書がつく立場になった。仕事にも慣れてきて、副担当ではなく、僕が主担当になる案件も増えていた。
インドでの大きな契約が一段落して、久々に日本に戻ってきた次の日に、僕は桃井課長に呼ばれた。
「取引先の榎伸工業さん、息子さんに代替りするらしいから」
「ああ、社長さん70代だし、先月ご入院されましたもんね。ご勇退ですか」
「それで、事業承継について相談されてる。顧問弁護士さんも高齢で、他の人を探してるらしいから、ここを専務に紹介しようかと思うんだけど、宮村が連絡とってみてくれるか?」
桃井課長から差し出された名刺には『鳥居坂法律事務所 弁護士 河村仁』と書いてある。
あー弁護士。弁護士かー。僕から梓先輩を奪っていった嫌な思い出しかない。
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