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「榎本社長とは、向島工業の買収の件でご一緒した事があります。10年程前で、私はまだ駆け出しでしたが」
「ああ、あの買収の時ですか。債権の整理に手間取ったのを覚えていますよ」
「榎本社長は……ご勇退ですか?」
「実はガンを患いまして。今も自宅療養中です」
「失礼いたしました。お見舞い申し上げます」
やり取りを聞きながら僕は、(この"所長"が社長の知りあいかあ。これはこのままうまく話がすすみそうだな)と思っていた。
……ん……待て待て待て。
河村先生、いま桐木って呼んだ?
僕の全身から血の気がひいた気がした。背筋に冷水を浴びせられたような悪寒までしてきた。
梓先輩は、相変わらず会社では旧姓のままで仕事をしているけど、新しい名字については梶先輩から一度だけ聞いた記憶がある。
河村先生が、桃井課長と僕についても紹介すると、桐木所長の表情が変わった。
さっきまでビジネスライクな顔だったのに、ほんの少し微笑んだ気がした。
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