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出てくるなよ
八月某日、晴れて暑い日のこと。
エアコンをつけようか迷いつつ宿題をしていたら、机の上のぬいぐるみの背中がいきなり裂けた。
「ふィ~、あっちい、あっちい」
ハチマキタオルを頭に締めた、四〇がらみくらいの小さいおっさんが出てきた。
見る目がそらせないでいるすぐ前で、おっさんは上半身だけぬいぐるみを脱ぐと、どこかから出した煙草に火をつけた。
目があう。
「よ、お疲れ!」
おっさんは気さくに笑ってくわえ煙草で歩きだし、ドアのむこうへ消えた。
手のひらサイズが愛らしくてお気に入りのぬいぐるみだったのに。
なんでおっさんが?
かわいくない。
「て、なんか違う!」
ひとりツッコみのあと、ドアを開けるとお気に入りのぬいぐるみが廊下に転がってた。
静かな廊下に風鈴の音が響いた。
ちりーん、て。
そう云う夏のある日だった。
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