廃墟

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廃墟

 なんだかなァ。  棒アイスくわえて青天蓋の下、スイクは一軒の家に見入っていた。  この家、思いだせば俺が小坊のころからある。  えーと、もう約一〇年はここにある。  草が茂る以外、なんにも変わらない姿で。  朽ちない壁。  動いた形跡のない深緑の車。  割れていない硝子窓。  パンクしていない自転車。  錆びたシャベルと色あせた郵便物。  ずっと、一〇年、ずっと、このまま。  なんだろね?  中でヒト死んでたりしねーよな。  蝉時雨が遠く聞こえ、車の往来もモンスターの往来に見えてくる不思議。  スイクは廃墟をためつすがめつのままアイスを完食した。 「あ」  棒に焼き印、つまり当たりだった。  廃墟をあとに駈けだす。  そろそろ仲間も、ランデブーポイントの駄菓子屋に集っているはず。  入道雲わんわん沸く空の下、スイクらはプールに喜び勇んでむかった。  さんざんはしゃいだ帰り道。  空も暮れ始めタフィーのようにとろりきらめく夕焼け空の下、スイクはまたここに居た。  さっきの当たりをひきかえたアイスを口に、廃墟をながめる。 「なんもねーだろ。そんなの」  プールに一緒した仲間のひとり、リッカがこいつもアイス片手にスイクと並ぶ。 「好奇心猫を殺す、らしい。怪異には手をださんが長生きじゃね?」 「この時代に怪異もクソも。俺はただ‥‥えーと、あれ?」 「はは、ま、なんかわかるわ。あれだな、龍脈どうたらで、おまえの気が惹きつけられてるとかそう云うんかもな」 「んー、今俺ら、頭の悪い会話してんな」 「玄人じゃないし、いいんだよ」  家々からおいしい匂いが風に乗ってやってくる。  ふたりも空腹を感じ、帰るか、と、スニーカーの足を動かしかけた。  ら。  突然、廃墟に何かの気配。  あわててふりかえると、硝子窓にあかりが灯り、その中で何か動く気配があり、あっけにとられて見ていると玄関ドアが開き、ナニカが玄関から移動する気配のなか車のドアが開閉し、四〇秒後くらいにエンジンがかかった。  国道へ遠のくエンジン音。  見送った少年らの背後で、家はまた静けさをとりもどし、車も定位置のままだった。
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