玄関

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玄関

 朝のこと。  同居人が静かにいってきますして、玄関のドアの開閉と施錠の音を聞いた。  時計を見る。  六時。  今朝はちょっと早い、て、言ってたしな。  俺も在宅ワークと云えどそろそろ起きるものとして、布団から這い出て同居人の作ってくれた朝メシを喰う。  朝早いのにメシ作ってってくれる。  なんならいっぱいになりかけてたゴミ袋もない。  嫁?  あいつなら。  俺も給料が安定してきたことだし、口座もそこそこぬくいし。  ほんわか愛しい笑顔を思いだしていたら、玄関から音。  がちゃ。  カチャン。  忘れ物?  玄関に行ってみるも、何もない。  え?  じゃあ、音は?  恐る恐る、施錠されていたはずが解錠のドアを開け、外を確認。  何も誰もない。  ただ朝の静けさが横たわっているだけ。 「は?」  おもわずもれた音。  なんだこれ。  ドアを閉めて心臓が跳ねた。  一瞬ののち、つま先から頭のてっぺんめがけ、ドライアイスがなでたみたいな、冷たい不気味さが虫のようにザワザワと這い上がってきた。  寒い。  いま夏だぞおい。  あー、もう、これで何回目だよ。  思いだしてみると春先から数回あって、花冷えで風流だね、などと同居人とのんきに語っていたが潮時かもしれない。  うん。  なんか居ついちゃったんだ、ここ。  なにかおこるかもしれないんだ、ここ。  だから。  さっさと結婚して住処移しなさいよ、と、言ってくれてるのかもしれない。  なにか俺と同居人を守ってくれる誰かが。  守護的な、存在が。
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