メロスの女

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メロスの女

 買い物を終えて車に戻ってきた。  今日はお米を買ったから荷物が重くかさばる。  だから自分の車が視界に入ったら、いっきに疲れが襲ってきた。  はー、休める。  珈琲も買ってきたし、ちょっと休んで、うち帰ろ。  カート押して車までわずかの距離でリモコンキィを手にする。  あれ?  車の下に足がある。  反対側。  しかも私へ向いた方向。  車に何かできる向きで。  え?  誰?  何?  不審者?  それにしたって、窓硝子のむこう、ヒトの姿らしきものは見えない。  あわてて反対側へまわる。  誰も居ない。  え?  みまちがい?  戻る。  見る。  居る。  回る。  居ない。  それを四度ほど繰り返し、また気づいた。  これ私の車じゃない。  まちがえた、よかった!  不気味に取り憑かれてンのは私の車じゃない。  ありがとう神さまー!  カートをゴロゴロ押しつつメロスのように走る女。  見ていた神さまはツッコんだ。  おまえこそが不審者だったゾ。  と。  薄桃色と蜂蜜色とがマーブルと溶ける、おいしい水のグラスを片手に。  クッション性抜群でふわっふわの、快適な長椅子から女を指さして。
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