街コン翌日

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街コン翌日

 昨夜、かー。  ヨモギはスポドリのペットボトル片手に、冷蔵庫のドアにうつかっていた。  けだるい朝だ。  ても、もう、午前十一時をまわる。  一〇時半前で目ざめて、軽度の二日酔いのくらめく頭でもって、トイレに行き歯を磨いてシャワーを浴びそれからここに居る。  ひとり暮らしもとっくに板についた。  アラサーがそろそろ姿を見せ始めている。  昨夜は街コンの、古い言葉で云うならハナ金。  半歩先の床にはりつく名刺が戦利品だ。  うっすらとある記憶では、本番では綺麗売りに失敗してなくて、だから一名様ご指名があったのでふたり軽く呑んで別れた。  顔も声も仕草も身なりも、話題も、好みに近かったぜ仕留めたかな?  しかしそんな浮き足立つ心にも、一点のシミがあった。  寝起きのさっき鏡を見てびっくり。  くせ毛が爆発していた。  本気でストパーかけようかと考える。  カラのボトルを洗って捨てて、なんとなくまた鏡にむかってびっくりした。  髪にコダマが居た。  コロコロ、キキキ、と、動いてる。 「え? なに?」  ヨモギはあわてた。  髪はもちろん、全身清潔にしてんじゃん、つかさっき洗ったばっか。  私の頭はシシ神の森か!  でもアシタカが言ってたっけ。  コダマの居る森は豊かだ、て。  じゃあ悪い気もしないけどなんだかな。  私豊かなの?  あ、メール。  昨日、好感触だった麗しき殿方からだった。  今夜、ディナーのお誘い。  なんて感じの良い文章をお書きになるのか。  自分をおおげさにアピってなくて、昨夜の楽しかった、も、品がある表現であって、誘い文句も上等上等。  あああ、ハイなんかもうもちろんもちろん!  鼻血出そうなほど脳みそをフル回転させ、前のめりにならない程度にOKの文章を作成、返信して、クローゼットに飛びついた。  おめかし、おめかし。  一時間半悩んだ服装で、男性の好きらしいおひかえメイクをする。  姿見の前で何度もひらひら。  よし、完璧。  髪もていねいにセットしたらくせ毛なりの愛らしさにまとまっている。  ふわふわしてて羊みたい雲みたい。  今の私みたい。  んー、これ、コダマ効果?  もう髪には居ないけど、そのかわり、姿見の前のヨモギの周りで、愛らしい残像が数体、躍って、応援のコロコロ、キキキ、の、声をたててる。  鏡ににっこり笑いかけると、ヨモギは気分よく夜の街へとくりだして行った。  それこそコダマが伴走してくれているかのような、軽い足取りでもって、五センチヒールを高鳴らせて。  胸の鼓動のように、るんるんと。
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