空の鈴

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空の鈴

 風の強い日、ある晴れた日、空には面白いように雲が居た。  見あげる少女、ふとしたはずみに風にあおられ空に昇った。  置き去りの自転車が音をたててたおれる様。  見おろし新品のカバンは無事なことに安堵し、導かれるままスカートがひるがえった。  唄う。  地球の旋律を。  青の色を。  空気の水の、植物の動物の、鳥の虫の、魚の、闇の光のあるがままを。  星にあまねく少女の唄声。  色を添えるはリンリンと。  鳴り響くさいわいの音。  雲が鳴らす大気の奇蹟。  白くすきとおった銀の鈴の音。  誰も彼もが空を見る。  空から降る歌を聴いた。  おのれの小ささ愚かさを痛感させられるそれを。  凝り固まっていた魂。  卑屈にねじまがっていた心。  ヒトのため息に腐されていた大気が癒やされてゆく。  虹がでた。  さいわいの雨が降った。  それは世界各地で観測され、たくさんのヒトがたくさんの唄い手を見た。  たくさんの歌を聴いた。  それからしばらくして世界から争いが消えた。  ただしかし。  唄い手も消えてしまった。  愛しい娘を息子をなくした親はなげいたが、数日ののち空に堂々たる姿を見た。  我らが子の姿だ。  青い衣を身にまとい。  銀の鈴の錫杖を掲げ。  音吐朗朗。  地球への人柱として背負った使命をはたすべく、命の賛歌を唄ってた。
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