明日も生きてゆく

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

明日も生きてゆく

 満点の星、とはこういう景色を指すのだろう。黒いベルベットに小粒のダイヤが散りばめられたような空に、香子は感嘆の息をもらす。  ロマンチックなロケーションのせいか、周りは見渡す限りカップルばかりだ。そうでなくても家族やグループで同じテーブルにつく人たちはもちろん、どこを見渡してもおひとり様での参加は恐らく香子一人である。  広いオーストラリアの大地のど真ん中、エアーズロックを拝みにやって来た。地元の言葉でウルルと呼ばれる一枚岩は荘厳そのもので、つい数時間前に圧倒されて来たばかりだ。  感動ついでに星空鑑賞ツアーに参加したのはいいが、カップルだらけの、それも新婚旅行と見える人びとに胸がチリチリと痛む。  香子も本来なら今頃、左手の指に新しい揃いの指輪を着けている予定だった。けれど、式や披露宴の段取りは食い違い、両家の両親や親戚との折り合いはとことん悪かった。このまま結婚することに躊躇し始めた香子が二の足を踏むと、夫婦となる予定だった二人にも亀裂が入ることとなる。  新婚旅行で来るつもりにしていたこの場所ですら争いの種になり、香子から結婚の取り止めを提案したのだ。  とはいえ、一度旅行する気になると、香子はどうしてもエアーズロックに来てみたくなった。傷心旅行と称して、思い切って一人でやって来たのだ。 「言葉にするんもおこがましいくらいやな」  星座について解説者が力説している。けれど全部英語であったために、香子には殆ど理解できなかった。  けれど今の香子には、きれいなものを見るだけで十分だった。トゲトゲしてささくれていた心が和らいでゆくようで、香子は昼間のウルルとはまた違った爽快な気分に浸っている。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!