七夕の茶会

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七夕の茶会

 亭主(ていしゅ)は、とても風情(ふぜい)を大事にする人だった。  季節の(うつ)ろいを感じ、(とこ)華美(かび)でなく質素(しっそ)に、落ち着いた(あつら)えを(この)むお人で、(ふところ)の深いお方だった。  節目(ふしめ)の季節には人を招いてもてなし、4畳半(よじょうはん)という(せま)(いおり)にて、一席を(もう)けた。  7月7日。  この日は、七夕の茶席を(もよお)した。  亭主が(もよお)す最後の茶席だ。  叶うことなら野点(のだて)にして、星空の下に一席(もう)けたいところだが、この時期は梅雨(つゆ)だ。悪天候になりやすいという事情を()まえて、室内で趣向(しゅこう)()らすことにし、夕刻(ゆうこく)からの開催を決めたのだった。  しかし心()けが良かったのか、本日は快晴。少々()し暑いくらいの気温まで上がっている。晴れたからと言って、この殺人的な日差しの(もと)野点(のだて)席にするわけにもいかず、結局は室内での開催に落ち着いた。  日が西に(かたむ)いた頃、客人方はこの(いおり)にやってきた。  (そと)露地(ろじ)にある待合(まちあい)談笑(だんしょう)している客人方に、亭主が小羽根(こばね)を手にして(むか)()けにやってくる。 「大変お待たせ致しました。どうぞお通り下さいませ」  挨拶(あいさつ)を聞いた正客(しょうきゃく)が、「お先に」と次客(じきゃく)に軽く頭を()げると、(うち)露地(ろじ)に進む。(つくばい)で身を清めると、小さな(にじ)り口から(いおり)へと入った。
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