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第一声は浩司だった 「あ、あのもしもし、三ノ輪橋です」 「ああ、三ノ輪橋さん、どうも浩司の兄の浩壱と申します」 あれ… 確かに限りなく、限りなく浩司の声 に近い、浩司の声ではない人 会話が長い文になればなるほど、浩司の声なんだけど、浩司の声ではないという、疑心が確信に変わっていく いつもの浩司の声より、高くて、少しノイズが入っているようなガサガサした声 時々どもったりして、くぐもった喋り方 聞けば聞くほど、やはり浩司ではないのかもと思わせる 「弟さんが亡くなったのは本当なんですか?」 「ええ、そうですね、こちらもバタバタしていてようやく落ち着いてきたんですが」 お母様が帰宅して、浩司が亡くなっているのを発見したらしい 浩司の死因は自殺だった 電話で兄弟の死を淡々と語っていたお兄さん 「原因は…なんだったんですか?」 「弟の遺品整理をしていた時、数枚の紙切れにランダムに数字が書かれていたんですよね」 「数字?」 「はい、最初なんかの暗号かと思ったんですが、桁が同じものが多く、はっと気付きまして、お金の数字だと思ったんです 紙切れには”コバヤシ”と書かれていて…」 コバヤシ… お金… 「多分そのコバヤシもストレスの原因だったんだと思います」 「ストレス?その人のせいじゃないんですか? きっと浩司は! …浩司さんは、そのコバヤシって人に脅されて金を巻き上げられていたのが原因で!」 「わかりません 紙切れだけの証拠じゃなんとも… 弟はそうじゃなくてもメンタル病んでいたので… 色々なことが複合的に絡んでしまったんだと思います」 そんな… 浩司…そんな話ひとつもしていなかったじゃない …いや …確かに話はしていなかったけど 浩司の、傷だらけの腕がフラッシュバックした なんで なんでこんなんなるまで何も言ってくれなかったの? と言うか、本当にその話は事実なのか? 今だって電話で喋っているが、本当に浩司じゃないと言う確信があるのか? 「浩壱さん、今から会えませんか?」 「え、今からですか?…ちょっと無理です」 「私、信じられません こうして電話しているのも、本当に浩壱さんと言う浩司の兄なのかもわからないですし…嘘かもしれないじゃないですか 会って見ないと信じれません」 「今日は無理です、また機会があれば」 「いつ逢えますか?会ってお話ししたいです!」 「いつ…と言われましても…ちょっと今の所スケジュール的に会える予定がわからないですね また連絡します」 そう言うと電話は切れた 切れた後、自分は興奮して、食い気味で浩壱さんに話していたかもしれないと、ふと我に返って反省した でも、どうしても信じれないのだ その浩司の兄と言う人物に会うまでは… それからずるずるとメールをするが、都合がつかないと言うやり取りを繰り返した 佐伯浩司 宛先: 三ノ輪橋秋 > Re: この携帯は解約するので、今度からこちらのメールに連絡を下さい そんな中、来たメールには新しいアドレスと電話番号が添付されていた 私はそれを新しく登録し、また根気よく連絡を取った 信じられない 信じたくない その一心で 結局、年明けになって、やっと、浩壱さんと会う約束がついた 春先 まだ肌寒い夜には暖かいコートが必要だ 私は着込んで街に出かけた 電車を二時間乗り継いで、浩壱さんがいるという東京に着いた 私が住んでいる田舎町とは比べ物にならないほどの人ごみだった 新宿駅に着いたとメールを貰い、待ち合わせ場所に向かった 大きな交差点にはドンキがある 待ち合わせ場所に着いて、辺りを見渡す 沢山の人混みの中 ウインドブレーカーの中にニットとシャツを着た、小太りで、可愛らしい雰囲気の人に惹きつけられた 私は何となく、多分彼が”浩壱さん”だと思ったんだ 心臓がバクバクして来た だってその人は、遠目から見ても浩司のすらっとした長身や、整った顔立ち、華奢だけど男らしい体つきなど、顔の作りや体格も身長も全然違うのに 顔の雰囲気が、浩司にそっくりだったから 嘘だよね 違うよね そう思いながら震える手で電話をかけた 繋がる携帯 「はい、佐伯です」 答える、もう一人の浩司 さっき惹きつけられたウインドブレーカーの男が電話を耳に当てる ああ… 間違いなかった 「もしもし、三ノ輪橋です 待ち合わせ場所に着いたのですが、どの辺りにいますか?」 「あ、三ノ輪橋さんですか、多分、目の前にいると思います」 私はゆっくり顔を上げた ウインドブレーカーの男は手を挙げ、会釈する 近付いてくる男の顔は、顔の雰囲気こそ浩司とそっくりだったけど、あきらかに浩司の顔ではなかった 「どうもはじめまして、佐伯浩壱(こういち)です」 佐伯浩壱さん… 浩司…じゃない 「はじめまして…」 「ああ、三ノ輪橋さんだったんですね」 「え?」 「弟の携帯の待ち受け画面の写真に写ってた女性… 三ノ輪橋さんでしたか」 待ち受け…画面… 『勝手に携帯覗くなよ』 『ええー、何で携帯見せてくれないの?』 『俺のお気に入りAV嬢の待ち受け写真だから』 『うわ、何それキモ! 変態~!』 『うっせ』
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