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結局
最後の最後まで
俺は先生に気持ちを伝えることが出来ないまま、先生は学校からいなくなってしまった
ダルイ、疲れた、と口々に周りが言いながら、また普段の日常に戻っていく
俺はその場からしばらく動けないでいた
二年には一応進級はしたが、正直、夏見先生もいなくなり、学校に入学した意義すら見出せていなかった状態で、いよいよ通学する意味が自分的にはなくなっていた
髪を染めた
ピアスを沢山開けた
腕を切る回数が日に日に増した
容姿端麗
成績優秀
スポーツ万能
周りからそう言われてきて、褒められてきて
俺自身も、そんな自分を誇りに思っていた時期もあった
でも大人になるにつれて
勉強が出来て、スポーツが出来て、イケメンと言うのはやっかみの対象にもなるんだと知った
そんな、一部のよく思わない人達が仕組んだおかげで、俺はクラス委員になったりもした
以前よりもクラスの人や、先生にいい顔をしなきゃならなくなった
面倒事も、表に出る事も多い
気付いたら手首を切って、その滴る鮮血をグラスに落として溜まっていくのをじっと眺めていたんだ
その時から、何かの拍子に、衝動的に身体を傷つけるのが癖になった
生きたくないけれど、死にたくはない
そんな考えが、いつも気持ちのどこかに浮遊しているような感覚
一年の時よりもさらに学校には行かなくなって、でも家にはいたくないから街をぶらぶらしてばかりいた
そんな暇を持て余した頭で、ふと、夏見先生が行ったという学校はどこだろうと思った
公立の…女子高等学校…
携帯で検索すると、一応は出て来るものの…
やっぱり聞いたことない学校だった
有名ではない学校なんだろうな
踵を返す
ちょっと、通りがかるだけ…
自宅に帰ろうとしていた道とは反対方向に歩き出す
しっかりと電車に乗って、聞いたことのない駅で降りた
こんな駅、地元にあったんだ
この駅に学校がなければ、まず降りる事のなかったであろう駅は、とても閑散としていて、のどかな雰囲気だった
学校まで続く一本の通り道
道路の両脇には昔ながらの小さな店がぽつぽつ、と並んでいる
不動産屋、美容院、酒屋、スナック、タクシー会社、教材店、洋菓子店、居酒屋、歯医者、仏具店、電気屋、花屋、銀行、洋服屋…
それ以外にも、カーテンやシャッターの閉まったお店、元々お店だった面影を残す建物もある
何となく、ノスタルジックな雰囲気を感じた
信号を渡って更に真っすぐ…右手には小学校が見える
活発な声が遠くから聞こえて来る中、自分の革靴の音がやけに響いて聞こえた
突き当りに、高校の正門が見えてくる
そのすぐ右隣りには、瑳珂比神社と書かれた神社があった
ここが…夏見先生がいる…高校…
正門前で学校を見上げた
新緑の季節
樹皮をよく見るに、桜だと推測される大木が青々と葉っぱを茂らせ
校門から先の道に影を作っている
何となく閉塞感のある学校だった
はあ…
ため息が出た
何をやっているんだ、俺は…
スラックスのポケットに手を突っ込んで、元来た道を戻った
通りがかるだけ、と思っておきながら
その実
学校に行ったら、夏見先生に逢えるかもしれないなんて…
浅はかな考えが頭に過って、気付いたら学校に向かっていた
俺は異常者だ
どうしょうもなく
馬鹿で間抜けで、滑稽だ
この時の俺は、まだ正常な判断が出来て
思いとどまることが出来ていた
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