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それから俺と秋は連絡を取り合う仲になった
会うのはいつも秋の学校近くの公園
もうそろそろ夏休みに入る
「ほい」
冷えたジュースを秋に軽く投げ渡す
「ちょ、これ炭酸じゃん!
手渡ししてよ!」
慌てた様子でコミカルな動きをする秋に、思わず笑いが込み上げる
「ははっ」
隣でぷしっと音がして、炭酸が吹きこぼれた
「うわあ」
またコミカルな動きをして、慌てふためく秋
一挙手一投足
そんな自然体で、分かりやすくて、飾らない秋を見ていると、いい意味で気が抜けて、穏やかな気持ちになる自分がいた
「ああ、バカだなー
少し置いて飲めばいいのに」
「いやいや、暑いからすぐ飲みたかったんだし」
ポケットからハンカチを取り出し秋の濡れた手を拭った
細くて華奢な女の子らしい手
「浩司のご両親しっかりしてそう、教養とかマナーとか、躾けとか厳しそうだよね
進学校行かせるくらいだし」
秋が何か感心したように、ハンカチを持つ手を見つめながら言った
「しっかりしてる…かな
俺さ、兄がいるんだけど、親は兄にはかなり世話焼いてるよ
だからってわけでもないけど…兄も俺と同じ高校だったけど、大学は東京の国立だしね
それと比較したら俺は…」
兄を越えられないし、母親に認めてもらえるような人間ではないと言おうとして口をつぐんだ
「そーなんだ
兄弟して同じ進学校なんだね
でも浩司も、やっぱ東大とか有名大目指してんでしょ?」
「俺は大学行くつもりないし、興味ないな」
「えー!進学校なのに!私立なんて両親お金かかって大変でしょ?
つかちゃんと学校行きなよ!」
「あー、んー
気分が乗ったらな」
「気分て
安い金じゃないんだし、せっかく入った学校なんだから行きなよ」
お前は世話焼きな母親か
そう心の中で突っ込むと鼻で笑った
その時、ふと、秋だったら俺が何言っても笑ってくれたり、冗談で返してくれるんだろうなと思って冗談で言ってみた
「じゃあ、デートしてくれたら考えるよ」
「え…?」
「あちーから海かプールでも行きたいなあー」
そういって俺は背伸びをした
「な?」
そのままの体制で、顔だけ秋に向けた
「うん…」
どこか上の空で、考えるような顔
求めていた反応と違ったけど、そう言った表情が妙に色っぽくて…
何故か絆された俺は、咄嗟に言った
「じゃ決まりな
来週開けといてね」
「え?何が?」
「え?プールか海でしょ?」
何となく、秋の表情に意識が戻ってきたような感じがした
「え、ほんとに言ってんの?」
「なんで嘘言うんだよ、まあ、やならいーけどさ」
秋の表情が険しくなってきたから、最後の言葉に逃げ道を付け足した
「別にいいけど…」
けど秋のそんな言葉で、気持ちが安堵する自分がいた
表情は相変わらず険しいままだったけど…
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