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翌週、俺は待ち合わせ場所の、秋の学校の最寄り駅に来ていた いつもの駅だ 市民プールはそこの駅からバスで15分くらいの場所にあった 剛志公民館北と言うバス停で降りて、そこから少し歩く 屋外にあって、邪魔する建物は何もない平地 青い山並みが遠くの方に広がる 近くには一級河川、広瀬川が流れている タイルの隙間から雑草が伸び、所々茶色く錆びた鉄骨 廃れた雰囲気が漂っているが、何となくそれが懐かしくてノスタルジックな気分になる不思議な場所だった プールサイドに向かった秋を、水色のプラスチックベンチに座ってぼんやり眺めた 「早く着替えなよ!泳がないの?」 秋が急かす 「うん」 「は?何のために来たの?」 「バカだな、決まってんだろ 水着の女子を観るためだよ!」 「うわっ、変態!何言ってんの?」 「俺は水着の観察で忙しいから、泳いできなよ!」 「もう!意味わかんないこと言ってないで行くよ!早く着替えて!」 秋に腕を引っ張られ、ワイシャツの袖が捲れた 白日の空、腕の傷が曝される 「何これ…?どうしたの?」 表情が曇り、眉間にしわを寄せた秋を見て、咄嗟に腕を引っ込めた 「知らないの?」 「え?」 「リスカって言うんだよ」 俺は自嘲して 「こういうことしなきゃ生きられない人もいるんだよ」 って言った それ以上、秋が腕の傷について聞いてくることもなく、ぷかぷかと流れるプールで一人泳いでいた プールからの帰り道 乗ろうとしたバスが丁度出たところだったので、歩いて駅まで帰ることにした 徒歩だと30分程はかかる 「あちー、アイス食べたくない?」 歩きながら俺は秋に聞いた 「あっ!いいね!」 「やっぱアイスと言えばこれだよね!」 途中のコンビニで、俺が真っ先にとったのはソーダ味の氷菓子 「私はなんかさっぱりしたフルーツにしよー」 夏の長い影が2つ並ぶ、黄昏時 大型トラックが横を通った後 湿気を含んだ、少しだけ涼しい熱気が駆け抜けた 「この味、美味しい!」 秋がアイスを頬張りながら笑顔で言った 「なんでアイスの実なんて手が汚れるやつ選んだの?」 「色んな種類沢山食べれるじゃん!」 「ふーん」 「一番ぶどうが美味しい!」 「いっこ頂戴」 「やーだよー」 秋がぶどう味のアイスを口に放り込んだ 何となく いやだよ、って言った彼女の言葉が 寂しくて ちょっと意地悪してみたくなった 秋の腕を引き寄せて、彼女の口に舌を滑り込ませる 「んっ…!」 秋の強張った身体が、わかりやすく伝わった 「もらい」 アイスを奪い取った ちらっと横目で秋をみたら 秋は丸い目をさらに丸くさせ、眉間にしわを寄せて、傍から見てもわかる位に顔を赤くさせていた その顔を見て、急に自分も恥ずかしくなってくる え? 何でそんな顔するの…? そんな意識する事でも、ないよね…? 努めて冷静に、状況を分析してみるけど 何故か自分の心臓の音は早いまま 「あ、秋!そういえば、昨日のあの番組見た?」 考えてはダメだ 考えないように… 俺は必死に、独り言に近い状態で会話のキャッチボールを投げ続けた
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