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自宅に帰って自室のベッドの布団を頭からかぶって、丸まった 頭の中では今日の出来事がちらついていた 秋が頬を赤らめている表情が、何度もリピート再生される また、ドキドキと心臓が躍る 意識したのは、俺だった くるくると、色々な動きや表情を見せる秋が、可愛らしく ハッキリと思った事をストレートに言う、素直で、抜けてて、バカなところが愛おしい けど夏見先生の時に感じた、雷に打たれたような衝撃と 真綿で首を締められるようなもどかしく、苦しく、焦がれるような気持ちと 何もかもめちゃめちゃにして壊してしまいたいという衝動はない 寧ろ、小動物を見た時のような、可愛らしく、愛でるような気持ちと テーマパークに行った時のような、楽しくて、わくわくするような感覚 秋と話していると、昔から友達だったような安心感があった この感情…なんだろう… 今まで色々な女の子と話してきたけれど、こんな感情になる事はなかったし、好きになる人や、好きになってくれた人には、大抵かっこつけた自分しか見せてこなかった 寧ろ、秋のような感情になる女の子は初めてのような気がした わからない その後、携帯で秋に連絡をしたが、いつもなら結構早いレスポンスが来るはずなのに、一日経っても返信がなかった 送ったメールの内容は、たわいもないメッセージだ 電話もしてみた でも出なかった 何時間おきかに電話を入れるが、出ない メールもその後、何度か送ったが全く返ってこない は? どういう事…? 秋の身に何かあったのだろうか…とも思ったが、何となくそれはないような気がした 直感だけど、明らかに意図的に無視している感じがしたからだ 理由は粗方想像できた 俺は夏見先生に逢いに行く用事じゃなくて、違う用事で またあの廃れて寂れた、でも何となく懐かしい気分にさせるような駅に降り立った 校門まで着くと、その入り口の壁に寄り掛かかる 秋に会える保証はない けどこうする以外、会う方法がなかった 腕時計を見る わざわざ目立つように、夏服に冬服用の赤いネクタイを付けて 人目の多い下校時間を狙ったんだ、今日秋に逢えなかったとしても他の生徒が俺の存在を認識するはず そうすれば噂が広まって、秋の耳に届くはずだろう 俺は校舎を見上げた 小さな塊を作るいくつもの女の子の集団が、案の定俺をまじまじ見て無言で通り過ぎたり、後ろの方で歓声が上がるのが聞こえた でもどの集団の中にも秋はいない もう帰ったのかな そう思った時だった 遠くの方に二つの影が立ち止まって、こちらの様子を見ているようだった すると、見慣れたシルエットがこちらに近づいてくる 俺は軽く手を上げて 「秋」 と呼んで、近づいていった 「浩司」 え、嘘でしょ?あの子? イケメン、かっこいー そんな会話が微かに聞こえてきた 秋はそんな外野の声に一拍置くと、視線を下に向け、顔は合わせずに素早く俺の腕を掴むと少し強めの力で引っ張ってきた 「浩司、ちょっと」 俺は無言で引っ張る秋に連れられ、いつもの公園に来た 「ちょっと、あんなことされると変な噂が立つから!」 案の定、秋はご立腹のようだった 俺はわざとらしく答えた 「あんなこと?」 「校門で待ってるとかさ!」 「秋が連絡無視するからじゃん」 「なんで 別に恋人じゃないんだから連絡頻繁に取らなくてもいーでしょ」 「ふーん、秋はそう思ってるんだ」 「は?」 「俺は秋のこと、大切な友達だと思って見てるよ だから、大切な友達から連絡来なくなると寂しいもんだよ」 「そんなこと言われたって 浩司には夏見先生がいるじゃん 好きな人いるんでしょ?」 秋に言われて、頭に夏見先生が浮かんだ 「そうだけど…」 そう俺が言うと、秋の表情が何となく曇った 「けど、最近頻繁に連絡してんの秋くらいだよ」 でも、直ぐに表情がパッと晴れる 「どーでもいい相手にこんな頻繁には連絡しないっしょ」 表情は晴れたが、口を尖らせ、納得していないような顔だった コロコロ変わる表情 感情が顔に出やすいタイプと言うか、顔を見ると秋の感情がすぐわかる だから、なんとなく構いたくなってしまう 「なんで? なんでそんなこと言うの?」 「なんで… なんでだろうなあ 秋にはさあ、俺のこととか、考えとか気持ちを素直に言えるんだよね」 秋と話してて思った事、感じたことをそのままストレートに伝えた 「ねえ、じゃあ普段、というか、付き合ってきた彼女とかいたと思うけど、そーゆー子には自分のこととか、考えや気持ち言ってこなかったの?」 「あー、言ってないね 他の子に例えば俺の性癖を言ったりして引かれたらいやじゃん」 「何それ、こいつにだったらいいやって感じ?」 「いや、違うよ 秋の場合はさ、そう言う事に対して笑ったり、突っ込んでくれるじゃん だから素直に言えるんだよね 冗談やギャグが通じるというか 気を許せるんですよ 俺基本他人に自分のこと話さないようにしてるから」 「ふーん」 秋は気のないような返事をしていたが、口元は微笑んでいた 俺は秋にわからないように鼻で笑った 分かりやすいやつ… そんな、秋が自分に好意を寄せているのを何となく感じて、悪い気はしなかった
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