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それから俺は、何かと秋に連絡する事が多くなった 特に連絡する用事も、理由もなかった けど、気付くと携帯で連絡を取っている自分がいた メールもするけど、電話の方が圧倒的に多かった 秋の声を聴くと、秋と話すと 気持ちが満たされ、落ち着く自分がいた そうやって 気付けば、10時間以上ずっと電話していたなんて事もざらにあった そんなある日、秋と電話していた時だった 秋が突然、言ってきたんだ 「なんか、さ 毎日連絡取って、電話して、私たち付き合ってるみたいだね!」 この言葉を聞く前、特に恋愛話や相談をしていたわけではなかった けど、唐突に秋がテンション高めに言ってきたのだ 俺は咄嗟に 「…いや、付き合ってはないよ」 と言った すると 「あ、まあそうだよね… じゃあ、忙しいからまた」 と言って急に秋の声がトーンダウンして、一方的に電話が切れた 切れてからしばらく、秋の言った言葉が耳に響いていた 『毎日連絡取って、電話して、私たち付き合ってるみたいだね!』 秋の無邪気な声 想像だけど、きっと笑顔で言っていたのかもしれない 秋は可愛らしい、愛おしいと思う事もある でも、それは… 『まあそうだよね… じゃあ、忙しいからまた』 秋の最後の言葉が耳に蘇る 哀しそうで、不満そうで、不機嫌な声音 多分顔もそんな顔 想像の顔もすぐ出来上がる 秋に電話を掛ける 「どしたの?」 何故か、間の抜けたような喋り方をして秋が電話に出た 「いや?さっき電話しててさ、急に秋の声のトーンが変わって電話切ったから気になって電話した」 「別に?そんなことないよ?気のせいじゃない?」 可愛くない言い方 「そう? 付き合ってないよ、って言ったこと気にしてるんじゃないの?」 そこで少しだけ間があった 「え? 寧ろ気にしてたの?冗談で言ったんだけど!」 と、急に秋の声のテンションが上がって、笑い飛ばすような言い方をした 「…ふーん、そう」 とは言ったが、納得はしていなかった 納得はしていないけど、今の自分の気持ちがよくわからなくて 上手く応えられない自分がいた さっきの会話で、秋の中での俺への好意は結構と言うか、確実にあるんだと思い知った 電話口でも、好きって気持ちが伝わってくる 俺も秋の事は好き…と言うか好意は持っている でも、その好きは恋愛としての好きなのか、友達としての好意なのか そして、秋の気持ちをどうやって受け止めたらいいのか、応えたらいいのか わからなかった 夏休みになってから、秋からの連絡が鈍りだした なんでも、ショッピングモールのアルバイトを始めたから、それで忙しいらしい 俺の学校もアルバイトは禁止されていないし、本校のやつや進学のやつはアルバイトしている人もいると思うが、特進のやつでアルバイトしているやつなんかいなかった と言うか、アルバイトするような暇や余裕がないとでも言った方がいいか みんな、夏休みも夏季講習や、勉強をしているやつが殆どだからだ それだけ志望大学に入りたいから そんなある日 秋の学校まで行く駅、所謂中継地点の駅で、黒いセダンから秋が降りて来るのを見かけた 笑顔の横顔 車を降りるとき、隣の人と楽しそうに話していた 会話していた相手は男だった その時、心臓が大きく脈を打って、バチバチ、と電流が身体に瞬間的に流れていくような感覚がした 父親にしては、顔があきらかに若い 秋に男の兄弟がいるという話は聞いていない その人誰? 友達?恋人? もしかして アルバイト先の人? どういう関係なの? そんな楽しそうに喋って 笑って… よくわからない、どす黒い感情がもやもやと湧き出ている事に気付いた これは、知ってる この気持ちは、そう、嫉妬だ 俺はあの黒いセダンの男に 免許を持った、俺より年上の男に 嫉妬している そして、その時ようやく自覚したんだ あ 俺、秋の事好きだ って 自覚してしまったら すとーん、と、今までの自分の気持ちが腑に落ちた プールの帰り道、意地悪をして秋にキスした時から いや 本当は もっと前から… 多分 ずっと、気付かない振りをしていた 夏見先生が好きだったのに いつの間にか、秋の事で気持ちがいっぱいで… そんな自分を認めたくなかっただけで けど、俺は自分の事ばかりで 秋の事、何も知らない 知りたい 秋の事を知りたい もっと… 「秋、付き合ってる人いるの?」 夏休みが終わった二学期始め 秋に会って顔を見たら、第一声で秋に聞いていた 「へっ…? えっ、いや、な、なんでそんな話に…? 全然だけど… どしたいきなし…」 その話を振ったとたん、秋は明らかに動揺して答えた 何だよその態度… 俺は若干苛立ちながら 「夢で見た!」 と、努めて明るく、カジュアルに言った 「はあ~?なんだそりゃ…」 秋は、呆れたような、なんだか、ほっとしたような雰囲気で苦笑いをした …ダメだ ふざけてばかりじゃ、冗談ばかりじゃ 逃げてばかりじゃ、ダメだ 「嘘、。 夏休み中、駅前で、男の車から秋が出てくんの見たから 楽しそうに話してたし付き合ってるやついたんだ、と思って」 俺は真顔で秋の顔を見た 秋は、今度は顔を引きつらせ、瞳を大きく見開いた 明らかに気まずそうな顔 「違う違う!付き合ってる人なんかいないし!あれは最近バイト始めて、そこの店長だから!」 秋はかなり焦った様子で早口で喋っていたが、急に静かになった
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